人の器量と発言

 最近の出来事で注目することは、スポーツ界における若者達の素晴らしい活躍と立派な発言である。一方スポーツ界の監督、大企業および学校法人の経営者、官僚、政治家などの老練な大人達の不適正な行為や不信な発言を見聞すると、その差の大きさに驚愕し、人の器量と発言の意義を深く考えさせられる。その差は、若者達が自分の目標達成のために純粋な気持ちで一生懸命打ち込むのに対して、年配者達は自分の立場、役割そして関係する利権を必死に守るために、巧妙な知恵と不当な権限を出して対応することによる。
 器量のある人は、自分の立場や役割を立派に果たす有用で優れた能力を持ち、人に好かれ、信頼される魅力的な人柄を持っている。その人の発言は人に希望、勇気を与える。
 人の器量は持っている能力、置かれる環境そして得られる経験の3要素の構成によって、その人の器の外観が形成され、その内容の質量で価値が決まる。その器が活動すると内容物の一部が言葉として外に出て発言となる。

  1. 人の能力には知力、体力、気力の3要素がある。知力には思考力、判断力、記憶力が大切である。体力は筋力運動を行って体を鍛える。生活態度を改めて体質改善を図る。自己管理により体調を整える。体力は知力、気力よりその変化が早急かつ明確に生じる。
     大相撲の名横綱千代の富士は引退会見で、体が思うように動かなくなり、体力の限界を知った。それに伴い相撲に取り組む集中力が薄れ、そして勝負に負けても悔しさを感じなく気力も減弱したので、引退を決意したと述べた。
     野球のイチロー選手は多くの世界記録をつくってきたが、それができたのは目標を高く設定し、それを実現するために毎日練習を繰り返したお蔭であった。自分は野球の素質に恵まれた天才ではなく、地道に努力する天才であると述べた。しかし気になることに、今年のオープン戦で若手投手の投球を避けられず頭部に死球を受け倒れ込んだ。彼のこれまでの身体能力からは考えられない出来事で、体力の年齢的変化が心配である。
     気力は自分の意欲・意地と責任・使命感そして周囲の支援・協力によって大きく影響を受ける。気力が盛り上がるには2つの場合がある。1つは自分がしていることが好きである、楽しい、周囲に認められる。もう1つは失敗する、勝負に負けるなどで悔しい、辛い状況に陥った場合、それを克服するために必死に頑張ることである。
     女子卓球の日本代表選手達は、幼い頃から自分が負けそうになると泣きながら戦いに挑むなど、負けん気の強い性格であった。
     一方女子ジャンプの高梨紗羅選手は、昨シーズン優勝すれば世界記録の樹立が期待された。しかし大会に臨んでも勝てず悔しく、辛いシーズンをじっと耐えて、14回目の大会でようやく優勝できた。彼女の素晴らしい能力、特に気力には感心した。
    彼女も含め一流選手は大会、試合を楽しむとよく口にする。この楽しむとは、二流選手が自分の欲望を満たすことと大きく異なり、彼ら、彼女らの希望を満すために高い目標を立て果敢に挑戦して達成すること、そしてその勝利に対する周囲の人達、国民の喜びを実現することである。
  2. 環境について、最近日本のスポーツ界が著しく発展した。その背景をみると、国内の組織体制を一本化して、ナショナルトレーニングセンターを設立し、全国から優秀な若手選手を1箇所に集め、選手の適性、心身両面の能力をよく見極めてトレーニングを集中的、効率的、科学的に実行する。また海外から優秀なコーチの招聘を積極的に行った。海外のコーチングの仕方はこれまでの日本のやり方とは異なる。それは選手とよく話し合う。選手の自主性を尊重する。選手にポジティブに取り組むよう促す。選手の長所を気づかせて伸ばす。結果が出ない場合は選手が責任を担う。
     最近の日本選手の活躍と成長ぶりを頼もしく思う。試合に勝っても、その内容を冷静に振り返り謙虚な態度で発言する。一方負けても、そこで自分の良かった点を挙げ、次につなげるとポジティブな発言をする。
  3. 経験については、人は人物、物事、仕事、立場、役割、時代との出会いによって思い出がつくられる。この思い出が経験となる。良き経験に出会うには、自分の器量と人格を磨き、良き人間関係と人脈を築き、運と縁に恵まれる。そして他の人々、組織、社会への貢献に心掛けることである。
     天下人であった3人の特徴と器量について考える。織田信長は自己中心的に権力を振るうことから部下の反感を買い、死に追いやられた。豊臣秀吉は後半に自分の欲望が目立ち、公私混同することからみじめな最後を遂げた。徳川家康は時代の流れをよく知って、自分の立場、役割を果たし、戦のない国にする管理体制を整えた。家康は長きに亘る経験から大将の自分および身内に厳しくする。家来には大いに気を遣い、惚れられるように努める。このことが家来を管理、活用するうえで重要である。家康は2代将軍秀忠に、仕事を家来に任せる場合、丸投げにせずに任せた自分にも責任があることを強調した。家康は惜しまれて亡くなり、他の2人より器量が大きく、その発言は含蓄に富むものであった。

 

 人の器量はその人が時代、社会に求められるのに必要である。一生懸命に磨かなければすぐに効力を失う。人の成長、組織の発展のために必要である。衰退の認められる時が現職からの引き際である。以上のことを胆に銘じておくよう心掛ける。

 

 

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