天皇、皇后両陛下のお姿と印象

 天皇、皇后両陛下は平成時代の30年間を在位され、またご結婚60年を迎えられる。我が国の象徴としてその立場、役割を立派に果たされ、また人間として国民から敬愛され、そして念願の生前退位を見事に成し遂げる。
 私が天皇陛下に関心を持つのは、陛下も私も2011年の同時期に労作性狭心症で冠動脈パイパス手術を受けたことであった。同じ心疾患の病状で、できるだけ早く仕事に復帰しなければならない状況だった。私はテレビで、陛下の術前の散歩時の苦痛な姿に気付き心配したが、術後にはつらつと行動される姿を見て、自分のことのようにうれしく思った。陛下は手術から3週間後、東日本大震災追悼式に出席された。その公務に対する誠実さ、責任感に感銘した。私も術後3週間で病院事業管理者として新病院建設職務に復帰した。このように私は天皇陛下と共通の問題を抱えて共感できたことを、大変うれしく思った。
 皇后さまについては、私の患者で昭和時代に女官を務めていた方と懇意になり、時々皇室の話を聞かされた。その時の話では、皇太子妃として皇室に入られた美智子さまが、心身両面で人の心を引きつける美しさを持っていた。お子様たちをご自身の手で育て、明るく、自然で楽しい家庭を築くことに配慮された。公務で出かける時は夫婦そろって行動するという平成流を実行された。天皇陛下は庶民の家庭生活を初めて知り、納得、満足された。それで陛下は国民に抵抗なく接するようになった。
 これまで両陛下のお姿をテレビ等で見ていて、印象に残る5つの事項があった。
 1つ目は人の生き方である。良き人間関係を築くには謙虚、感謝、貢献する姿勢を示すことである。謙虚な姿勢を示すことで人から好かれ慕われる。被災地を訪問された時など両陛下はひざまずいて同じ目線で体に触れながら話を聞き、話される。周囲の人たちに感謝の姿を示すことで信頼される。両陛下はボランティアや任務に当たる人たちにも、ありがとうと慰労の気持ちを常に述べられる。他人に喜んでもらう、役に立つために貢献する姿を示すことで周囲から尊敬される。両陛下は公務を最優先させ、誠実で、温か味のある対応をされるので大変喜ばれる。
 2つ目は自分の立場、役割を立派に果たすことを心掛ける。天皇陛下はこれまでの長い皇室の歴史、伝統、慣習、そして天皇のあり方について大変よく勉強されている。これまで天皇家は武力を持って権力を行使するのでなく、学問をもって権威を高めて国民に寄り添い幸福、平和を願う行動をしてきた。学問とは自分の能力、徳を磨き他人、国民に奉仕する仕事である。権力は溺れ易く腐るが、権威は輝き存在を高める。そしてその光が幸福、平和の方向を照らし導く。
 歴代の天皇は時代の要望、国民の声によく耳を傾け、そして適切な行動を心掛けてきた。それが国民の信頼、尊敬を集め伝統が引き継がれてきた。天皇陛下は政治から距離を置き、国民に安寧と幸福、平和をもたらすことが象徴天皇の最も大切な務めであると自覚され行動される。皇后さまがこの大切なお務めの意味をよく理解され、自分を支えてくれることを大変ありがたく思うと述べられた。
 美智子さまは沖縄訪問時に火炎瓶事件に出遭った。その時美智子さまは当時の皇太子さまを身をもって守るため、その前に立たれた。その覚悟と凛々しいお姿に感銘した。
 昭和天皇、今上天皇そして皇太子さまは、それぞれ研究テーマを持ち、科学的活動に熱心である。研究を通じて物事の本質を客観的、科学的に見極める。さらにその成果を学術発表、論文作成、著書出版などを行う。これはこれまでの皇室の伝統、慣習をより現状に適合するように見直し、かつ将来を見通して適切な方向に導くことを示唆する。
 3つ目は人生の引き際を考える。天皇陛下は天皇および皇室のあり方、かつ国民への要望を歴史学的および科学的に分析、熟考した結果を2016年8月に退位を強く滲ませたビデオメッセージをテレビで公表した。科学を学んだ者として高齢となり心身の老化を実感し、象徴天皇として的確に役割を果たしていくことに不安を感じて退位、譲位をする決断をされた。このことは誠に適切な行動である。
 4つ目、新しいことをする場合抵抗され、時には非情な事態を招く。皇室でも、これまでの伝統、慣例を変化させる場合、かなりの抵抗勢力に遭う。民間から皇室に入られた美智子さま、雅子さまにもバッシングが生じた。お2人の苦悩するお姿とご家族の困惑するお姿は印象的であった。美智子さまの失声の回復には、紀宮清子さまの温かい支援が最も貢献した。雅子さまの場合は適応障害が深刻であり、愛子さまが立派に成長されて優しく支援することが最も望ましいと言われる。
 5つ目、「国は家庭にあり」と言われる。温かく、信頼し合う家庭があれば国は救われる。天皇家の家庭環境、家族関係は美智子さまの気配りと思いやりのある対応のもとにつくられる。時には皇后の立場から若い皇族たちに適切で厳しい言葉を述べられる。それは「皇室というものは常に自らを厳しく律する責任がある。夢は人生の志として大事であるが、あくまでも成し遂げられる可能性と努力があってのものである。浮ついた気持ちでの行為は慎むことである」などであった。
 皇室の方々のお姿を見て当てはまる最適な言葉は「奥ゆかしさ」である。その意味は「深い考え方や行き届いた心遣いが感じられ、慕わしい気持ちになる。言葉、動作が慎み深く控え目である。どことなく気品があって心が引かれる」など、この奥ゆかしさに外国の人たちも強い感動を覚える。そして皇族の人たちはすばらしい外交をしていると称賛されている。これは皇室のあらまほしい(理想的)姿である。

このページの先頭へもどるicPagetop

À メニュー
トップへ戻るボタン