平成最後の年末年始の挨拶の概要を述べる

はじめに

 毎年年末の仕事納め、忘年会、そして年始の仕事始めの時に個人の成長と組織の発展を切望して、挨拶をする。その具体例を紹介する。

  1. 平成30年度札幌医科大学麻酔科教室・同門会忘年会:本日ここに教室員、同門会員、職場の関係者や関連病院の院長先生方など150名ほどが明るく、元気に参集されていることを喜ばしく思います。今年は激動の平成時代の最後の年を迎えており、世の中では人の考え方、組織のあり方などに大きな変化がみられ、新しい価値観の時代に変わる節目の年であります。その具体的な事例として、組織の指導者のあり方があります。これまでのスポーツ界では女子レスリング、アマボクシング、体操などで指導者が自分の経験を重んじ、自分の存在を示すために高圧的な態度で、面倒をみてやるといったボス的態度で選手に接し、指導に当っていました。この態度に国際大会を経験した実力、実績のある若手が反発して、改善、改革を求めました。一方、スピード、フィギュアスケート、卓球、バドミントンなどでは指導者がリーダー的存在として外国から優秀なコーチを招き、選手との話し合いを盛んにさせ、選手に長所を気付かせ、自分で考えること、責任を持たせて行動させる指導方法をとりました。その結果、これらのスポーツ界では世界トップレベルの活躍をしております。
     さて私が今年、最も注目した人物はプロ野球の大谷翔平選手です。今年帰国時の彼のインタビューで、この1年間は新人王をとるなど嬉しい年であったがまだまだ力不足であり、満足できるものではなかった。また日米の野球の差は技術面であり、自分が思っていた以上に一流選手との差が大きいことを痛感した。それで自分が変わってより良い方向に変化していかなければこの差は縮まらないと謙虚で、真剣な態度で述べていました。
    また彼は子供達との会見で大リーガー選手にとって、きちんと挨拶をして信頼される人間関係を作ることが大切であると強調していました。この彼の人柄が大リーガーの本場で選手、マスコミや観客達から好かれる理由であることがわかりました。
     最近の自動車業界では日産のカルロス・ゴーン前会長の動向が話題になっています。彼のような事例はこれまでの歴史の中で繰り返されており、人間の傲慢さ、愚かさを示すものであります。人は組織の発展のために強いリーダーシップを発揮するのに権力が必要な場合があります。しかし人はその権力に酔いやすく、自分に力があると思い込みワンマンになる。そしてその権力を公私混同して利用するようになる。そうすると世の中から批判され、追放されることになります。
     これまで言ったことは我々医学・医療界においても当てはまることですのでそれらをよく理解して実践することが大切です。

  2. 平成30年小樽市立病院仕事納め、忘年会:本日の忘年会には140名ほどの各診療科、部門の人達が参加されており嬉しく思います。本年度は当院にとって大きな出来事があり、貴重な体験をし、多くのことを学びました。私にとって大きな出来事は2つあります。1つは嬉しく、誇りに思うことです。それは小樽市立病院創立90周年記念事業を実行委員および関係者の努力と職員の協力によって立派に成し遂げたことです。90周年記念誌は10月に発刊し、読まれた方々から歴史がよく書かれている、また懐かしい写真が掲載されているなど好評でした。10月末からの病院まつりは記念行事の一環として力を注ぎ、病院の歴史のパネル展示、市民向けの講演会などが参加者から喜ばれました。11月に行った職員向けのICUの実情と意義についての講演は当院にとって有意義なものでした。11月17日の市民公開講座では最近注目されている「がんと遺伝」についての講演があり、参加者から高い評価を受けました。その夜は記念式典と祝賀会が200名を超える参加者のもと盛大に執り行なわれました。この会では参加者の当院に対する信頼と期待を強く感じました。私は約3週間にわたり記念行事を行いました。その目的は全職員が小樽市立病院の歴史的経緯と役割りに関心を持ち、その存在意義を考えてもらうことでした。そして90周年記念式典祝賀会は小樽市立病院の新しい時代に向けての船出を激励する会でもあることをしっかり認識してもらうことでした。
     もう1つの出来事は病院事業者・病院局長として責任を痛感する残念かつ辛いものです。それは看護師不足により一時的に病床を休床にしての運営を余儀なくされることです。しかし、私はこの事態を悲観的に考えておらず当院が新しい体制で運営するに当って起こりうるものと思っているからです。そしてこの危機的な事態を変革の機会ととらえて果敢に挑戦することで病院の体制、あり方を変化させていく覚悟です。さて本事態の発生にはいくつかの要因が重なったものと思います。まず病院の黒字化のため稼働率90%を目標にしたことで業務量の増大、複数の診療科による業務内容の複雑化、医師とのコミュニケーション不足などから看護師の心身両面の負担が増大し、勤務だけでなく日常生活にも余裕がなくなったことから離職者が増えたことが考えられます。当方の対策として看護師の補充、看護体制の見直し、チーム医療の充実などを早急に行うことにします。一方職員の皆さんには情報を公開しますので当院の実情をしっかり理解して、お互いに努力、連携、協力を積極的に行うことを切にお願いします。先日の医局会では多くの先生方が集まり、病院の現状と対策、看護師から医師への要望について真摯な態度で熱心に前向きな討論が行なわれました。このことに感心するとともに頼りがいを感じました。さて現在の当院の困窮する状況下において大切なことは各個人および各診療科・部門からの立場、役割を強調するのではなく、病院全体の立場に立って、病院の状況の回復をよく考慮して活動することです。組織の中で皆さんから認められる活動をするには「おいあくまない精神」を心掛けることです。すなわち、お:おこらない、い:いばらない、これで信頼と協力を得る。あ:あせらない、く:くさらない、これで成果を上げる。ま:負けない、これで高い評価を受ける、ことになります。皆さんの奮起と活躍を期待します。

  3. 平成31年の仕事始め:新年を迎えた皆さん方には当院の重大な試練をよく理解し、それに対応する覚悟が感じられることを心強く思います。
     人は困難な事態に直面しそれを努力、苦労して乗り越えることで実力と自信そして人間力をつけ、成長するものです。この困難な事態は時代の変化する時に出現し易く、多くの人達がその対応に不安と戸惑いを感じ、そこからの逃避を招くことです。
     この課題は病院全体の立場から取り組まなければならない重要なものです。まず目標、ビジョンを立てそれを実行することです。この目標を達成するには継続、集中、徹底することです。目標を継続することでその意味が理解される。目標に集中することでその内容が明確になる。そして目標を徹底することで確実に達成されかつ次の展開が開かれることになります。現時点での目標は①看護師不足による病床削減の体制を円滑、円満に運営、②医師・看護師その他コメディカルの立場、役割を明確にしてチーム医療を充実、③新公立病院改革プランの確実かつ円滑な実施、④地域医療連携の充実と普及、⑤医療者の働き方改革の現実的な検討などが挙げられます。これらを早急にしっかり対応していく必要があります。
     さて私はこの年末年始に、当院の置かれている厳しい状況に対して何かよい解決策がないか探していました。その時に日本運命学会の著書を見付けて私の平成31年の運命について調べました。そこに誠に的確で感心する5つの箇条書きの文章が載っていましたので私の見解を付けて述べることにします。

    ①過信して猛進すると停滞することがあるので無理せず徐々に遂行する。今回の稼働率の目標、看護師不足の件では私の看護師の業務内容、体制面に対する判断が甘く、結局負担を掛けてしまうことになりました。そして黒字化の経験を一日も早く体験してほしいこと、そして経営改善を図りたいとの焦りがあったことを反省せざるをえないと思っています。この経験から失敗は恐れず、繰り返さないためにもあせらない、あわてない、あきらめないの3つの言葉を大切に活動する必要があります。
    ②事前準備をしっかりしておけば思わぬ事態にも善処できる。あらゆる事態を想定して準備することは大切です。しかし現実的に準備に時間が掛り過ぎると仕事実行のチャンスを逃す懸念のあることを知る必要があります。
    ③情報の収集・分析は手際よく行う。これに関しては情報の公開、共有、活用をしっかり行うよう心掛けることです。そして詳細なデータ分析とその評価と展望について充実させる必要があります。
    ④人は評判を気にするから忠告と褒め言葉を適当に織りまぜて対応する。人には自尊心があるのでそれを傷つけないように注意すること、やる気をおこさせるよう誉めることが人を活かす、業績を上げるうえに大切です。しかし、人は自分の都合の良いように解釈して、行動するものであることを知る必要があります。 
    ⑤自我を慎み、協調的に進めれば信用がつく。これは和して同せずであり、自分の考えをしっかり持っているが物事が円滑に進むように歩み寄って成果を上げる。これは大人の対応をすることです。そのためには自分が謙虚で、感謝の気持をもち、周りに貢献する態度をとる必要があります。

     その他いろいろ本を読んで興味のあったことは強い、勢いのある組織について書かれたものでした。それは戦国時代の武田家の遺訓であり、「人は石垣、人は城、情は味方、仇は敵」でした。その意味は強い、勢いのある国は石垣や城などの建造物が頑強であるより、そこにいる人の意気込み、人間力、能力がすばらしく、そして情すなわち思いやりを大切にして、仇すなわち自己中心的な行動を抑え込み、信頼の絆でしっかり結ばれると言うことです。当院においてもそれを見習いたいものです。

おわりに

 公的な挨拶をする場合には個人あるいは組織として高い評価を受けることを心掛けます。我々は活動のための健康と活力、活動する場所、自分の立場と役割そして円満で幸せな人間関係などが必要です。しかしそれ以上に大切なことは周囲の人達から信頼され、仕事、職務のご指名を受けることです。これらの人達は人間力が高く、専門的にも実力、実績があるのでその評価は価値の高いものとなります。同様なことが病院の評価においてもみられます。質の高い診療を行うことで高度で最新の医療を提供する。患者サービス、医療安全を行うことで患者に安心、安全な医療を提供する。経営の質を上げることで働く環境の充実、最新医療機器の整備が行なわれる。人材育成、教育に力を注ぐことで病院職員の人間力と能力の向上がみられる。これらのことは患者、地域住民から高い評価を受け、選ばれる病院になります。

職員の皆さんには当院の現状を理解して一日も早く復活するよう、力を合わせて貢献することを念願します。そして、医師会皆さんのご支援、ご協力を頂ければ幸いです。

このページの先頭へもどるicPagetop

À メニュー
トップへ戻るボタン