これから小樽市立病院の取り組む課題と対策

はじめに

 平成29年度は小樽市立病院が統合・新築し、開院して3年目を迎える。当院がこれから激変する医療界の中で生き延びて行くためには全職員が当院の基本理念と基本方針の概念をしっかり理解し、一致団結してそれぞれの業務を遂行していくことである。この概念の中で強調しているのはⅰ)市民・患者に信頼、安心される質の高い医療を提供すること、ⅱ)小樽・後志二次医療圏で唯一の総合的医療を担う急性期基幹病院としての役割を果すことである。

質の高い医療を提供し、推進するためには3つの要件を円滑、円満に連携、活動させることである。

①1つ目は診療の質を高める。それにはⅰ)医療機器、設備の充実、ⅱ)チーム医療の確立、ⅲ)人材確保、育成である。当院では現在がん診療の充実に力を注いでいる。

②2つ目は患者のサービス、安全の質を高める。このため当院では昨年7月に病院機能評価機能種別(一般病院2と精神科病院)の認定を受け、現在実践している。

③3つ目は経営の質を高める。経営状況の良い病院は診療および、患者サービスの内容も良く、優良な病院として評価される。これからは病院経営の質を高める医療者が強く求められる。現在自治体病院では病床数300~500床規模の病院の約6割が赤字経営である。総務省はそれを重視して各自治体病院に新公立病院改革プランを策定させ平成29年から4年間に経営改善、経常収支の黒字化を目指すようにとの通達を出した。当院ではその対策として昨年の5月より外部コンサルタントとして有限責任監査法人トーマツの助言、協力を受けて改革プラン策定作業を進めている。

本稿ではこれからの小樽病院の取り組む重要な課題と対策としてⅰ)がん診療の充実のために地域がん診療病院の指定、ⅱ)病院経営改善と黒字化のために新公立病院改革プランの策定の実現について紹介する。

 

1.地域がん診療病院の課題と対策

1)経緯

①道は、本道におけるがん医療水準の均てん化を図るため平成20年4月に厚生労働省が定めた「がん診療連携拠点病院の整備に関する指針(整備指針)」に沿ってがん診療体制の整備を行った。さらに平成24年12月には道独自で北海道がん診療連携指定病院の整備を進めた。

②国は、平成26年1月に二次医療圏での拠点病院整備に偏在がみられることから整備指針の改正を行った。そこで地域がん診療病院の指定を新たに制度化した。

2)地域がん診療病院整備の意義

①地域拠点病院の未整備二次医療圏において、拠点病院に準じる診療機能を確保する。

②将来、拠点病院の指定を目指す病院を対象に推薦する。

③隣接する二次医療圏の拠点病院からグループ指定を受けて地域性に応じて役割分担を明確にする。

3)本道におけるがん診療体制の整備区分(平成28年4月時点)

①都道府県拠点病院:都道府県に1カ所、道が推薦して国が指定する。北海道がんセンターが指定を受ける。

②地域拠点病院:二次医療圏に1カ所、道が推薦して国が指定する。道内19病院が指定を受ける。

③地域がん診療病院:拠点病院のない二次医療圏に整備、道が推薦して国が指定する。今回小樽市立病院と北海道中央労災病院が申請した。

④北海道がん診療連携指定病院:道の整備方針で指定を受ける。当院と労災病院含めて25病院が指定を受ける。

4)当院の申請時点での課題と対策

①診療体制で緩和ケアに専従看護師が配置されていなかった。この点については緩和ケア管理室を設置し、室長に久米田副院長を専任の医師に、および専従の緩和ケア認定看護師を配属する。業務として緩和ケアチーム、緩和ケア外来、がん患者サロン、緩和ケア研修会の管理、運営を行う。

②拠点病院との連携、協力体制が未整備であった。この点については拠点病院の北海道がんセンターとがん診療連携体制構築に係わる覚書を正式に結んだ。このような対策を明記した文書を添えて申請した。

③審査結果:厚生労働省健康局の「がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会」が平成29年1月に開催された。全国から推薦された13箇所の拠点病院、がん診療病院の審査が行われた。その結果小樽市立病院、北海道中央労災病院含め5病院が、がん診療病院そして1病院が地域拠点病院の新規指定を受けた。この4月から地域がん診療病院として診療が実施される。

5)がん診療の対策と展望

①がん診療は当院の診療の3本柱の1つである。当院は質の高いがん診療を目指すため、今回地域がん診療病院の申請を行った。しかし本来の目標は近い将来にがん拠点病院の指定を受けることである。現在当院はがん拠点病院認定に必要な診療実績として院内がん登録数(年間500件以上)、悪性腫瘍の手術件数(年間400件以上)、がんに係る化学療法のべ患者数(年間1,000人以上)、放射線治療のべ患者数(年間200人以上)のうち、放射線治療数が若干下回っていることだけが問題で他は満たしている。この問題は放射線治療医が4月から常勤するので解決する。

②がん診療を充実、発展させるためには人材確保、育成が必要である。本年の2月からは婦人科腫瘍専門医の金内先生(長崎大学産婦人科准教授)、そして4月から北大腫瘍センター長の櫻木先生(北大婦人科教授)と放射線治療医の土屋先生(北大放射線科診療准教授)が勤務される。

③このことはⅰ)当院のがん診療の質が大いに高まる、ⅱ)職員のモチベーションが高まり、人材が育成される、ⅲ)病院経営面に良い効果が得られる、そしてⅳ)小樽・後志地域のがん診療に貢献する。

 

2.新公立病院改革プランの課題と対策

1)公立病院改革の目的は公・民の適切な役割分担の下、ⅰ)地域において必要な医療提供体制を確保すること、ⅱ)公立病院が安定的に不採算医療や高度・先進医療などの重要な役割を担っていくことである。

2)国(総務省)から平成27年3月に通知された「新公立病院改革ガイドライン」に基づいて、当院では平成28年度に「新公立病院改革プラン」を策定することにした。

3)プランの主な内容は次の4項目である。ⅰ)地域医療構想を踏まえた役割の明確化、ⅱ)経営の効率化(国の最重要課題)、ⅲ)再編ネットワーク化、ⅳ)経営形態の見直しである。

4)これらのことを事務部経営企画課とトーマツが共同して、当院の経営分析及び院内外のヒアリングを実施して、国の病院機能の見直しや、病院事業経営の改革を総合的に取り組むことにした。

5)この重要な課題に対して種々の取り組みが実施された。

①昨年8月新公立病院改革プラン策定職員説明会:ⅰ)局長より当院は急性期病院の7:1入院基本料の維持と医療収益を上げるため救急と紹介患者の受け入れ強化が必要である。ⅱ)事務部長より平成27年度の決算で経常収支は4億6千万円の赤字であり、このままの状況で推移していくと平成32年度までに経常収支を黒字化するのは困難である。給与費・材料費・経費といった大きな支出を抑制し、入院収益、外来収益を如何に向上させるかがポイントであるとの説明があった。

②昨年9月、経営改善のための職員アンケート調査:814名に配布、667件の回答があった。この内訳はⅰ)費用削減に関する改善案(1,213件):節電、その他省エネルギー化、物品調達・管理方法の改善、人件費削減(時間外勤務など)、ⅱ)2次救急患者の増加策(192件):院内体制の整備・強化、対外的な活動の強化、ICT活用、ⅲ)紹介患者の増加策(162件)、営業・広報活動の強化、ⅳ)その他(96件):医師負担軽減、患者サービス向上、病棟や外来の運用改善や再編、駐車場の活用、職場環境改善などである。多くの職員の熱意が伝わり、大変頼もしく、喜ばしく思った。

③このアンケートの分析を進めアクションプラン(経営改善策)の立案を行うことにする。アクションプランを現実的な、具体的なものとし、実行していくためには多職種によるタスクフォース(対策のためのチーム)において、検討や管理を行うことが必要である。このため本年1月に新改革プラン推進委員会を立ち上げ活動を開始した。(後述)

④昨年12月新小樽市立病院改革プラン(素案)策定職員説明会:ⅰ)局長より当院が経営的に自立し、地域住民に選ばれる市立病院になるため、職員に一致団結して頑張ってほしいとの要請があった。ⅱ)トーマツより、当院は後志医療圏最大の急性期医療機関であり、救急・紹介からの入院患者増による重症度・医療看護必要度の向上、在院日数減及び単価増が課題として想定されるなどの分析結果が示された。ⅲ)事務部長よりこの素案については医師会、市内公的病院及び市議会議員に意見を求めるほか、今後パブリックコメントを実施し、市民から意見を募集する。そして平成29年3月中に成案を策定することになるとの説明があった。

⑤本年1月新改革プラン推進委員会の設置:ⅰ)設置目的:新改革プランを平成29年3月中に策定し、着実に実施する。地域の医療提供体制を確保し、良質な医療を継続的に提供するためには、経営の効率化を図る必要があり、収入増加・確保対策及び経費削減、抑制対策等の施策に職員が一丸となって取り組み、新改革プランに掲げた数値目標を達成し、健全で自立した病院経営を確立するため設置する。ⅱ)業務内容:新小樽市立病院改革プランに掲げた目標達成に向けた具体的取組(アクションプラン)の策定及び進行管理について行う。取り組み項目はa.民間的経営手法の導入:・民間病院の経営手法の研究、・DPC分析結果の積極的な活用、・各診療科ごとの収支の分析の検討、b.経費削減・抑制対策:・委託契約の点検、見直し、・採用医薬品数削減の取り組み、・後発医薬品割合の向上、・材料調達方法の改善、c.収入増加・確保対策:・救急患者の増加、・紹介患者の増加、・手術件数の増加、・平均在院数の短縮、・クリニカルパスの活用、・高度な診療報酬加算の取得、・有料個室料の取組方法整理、・検診業務の最適化の研究、d.その他・職員の意識改革、・人材育成などである。ⅲ)委員会構成:委員会は委員長に信野理事・副院長、副委員長に田宮理事・副院長が就任し、9部署から14名委員が選出され合計16名の委員で構成する。事務局は事務部主幹が専属で当る。ⅳ)活動内容:アクションプランの策定(平成29年3月末)までは2週間に1回委員会を開催する。その後は毎月1回委員会を開催し、アクションプラン等の進行管理を行う。委員会は活動方針、内容を適時理事会に報告し承認を得る。

 

おわりに

これからの医療界は個々の病院が自分の実力、実績を冷静に判断して立場、役割の分担を行ってお互いに連携、協力、共存していくことが必要である。当院はこれからも小樽・後志地域の総合的医療を担う急性期基幹病院として存在して行く。そのためには診療の質を高めるとともに経営の質を高めることが必須である。これを実現させるにはいろいろ取り組む課題があり、かなりの覚悟と努力が必要である。

①病院の経営改善すなわち医業収益を上げるにはⅰ)最新の医療機器、設備の整備、ⅱ)それで治療を受ける患者確保とⅲ)それを活用する医師確保が必要になる。地域の医療機関には当院への患者紹介および施設利用を積極的に行うことを切望する。

②医師確保の実情について:若手医師は症例数が多く、貴重な臨床経験が得られるほど当院に対する評価を高める。また臨床研修医は各診療科の研修と診療の方針、内容を評価して大学の医局に入局する。これらの事が大学医局人事に大きく影響をもたらし、医師派遣の増員につながる。当院は幸運にも平成29年度の医師数は、常勤医56名、嘱託医6名、臨床研修医12名の総数74名で前年度より7名増加となる。彼らが加わることで医療収益が増すように環境を整え、対策を立てることにする。

③一方医業費用は医療内容の充実、拡大に伴って増加する。高額な医療機器の減価償却費、機器の整備費などの負担が大きく、その他運営の拡大に伴って給与費、材料費、経費などが増加する。それで医業費用が医業収益を上まわっているのが実情である。

④この実情の変化と原因を正確、迅速に把握して的確な対策を立てる体制にする。早急に電子カルテの診療科のコード増設、およびEVE(イヴ)、Medical Code(メディカルコード)、カンゴッチなどの経営支援システムを導入する。このシステムをしっかり活用し、改革プラン実現の成果を上げることが大事である。

⑤病院事業管理者・病院局長としての私の任務はⅰ)当院の経営改善と平成32年度までに黒字化の見通しをつけること、ⅱ)これからの病院事業を円滑、円満に引き継がれるように努力することである。

 

このページの先頭へもどるicPagetop

À メニュー
トップへ戻るボタン