人の立場と役割の果たす意味を考える

 人生においてその人の立場、役割の果たす意味を知って行動することが重要である。 
 立場は人を作る、人を変える、人に教えることによってその人の思考、態度、行動に大きな影響を及ぼし、その人に果たすべき役割を与える。役割はその人に割り当てられた任務である。人は立場に相応しい役割を果たさなければ評価されない。
 立場を得るために一生懸命に苦労、努力することは、人間力のある人を作る。人は得られた立場を謙虚に受けとめて善用することで周囲に喜び、幸せをもたらす。
 一方で人は周囲の意見を聞かず独善的に権力を乱用する、公私混同して後継者を身内から登用する、世の中の流れを的確に読めずに無謀な言動をするなど立場の悪用により、周囲に迷惑、悲惨な状況をもたらす。
 立場は人に世の中の厳しさを教える。人は立場での仕事、行動によって周囲から評価されることを認識する。その立場を離れるとその人のこれまでの人間性を周囲から厳しく評価され、寂しい想いをする。特に政治家、実業家で一時期に活躍した人達が、時代の流れについていけずに晩節を汚す。
 歴史は繰り返すと言われる。それは生じた事実の現象が表面的に似ているということで本質的にはそれぞれの時代の背景に影響され異なっていることを理解しないと、誤った判断につながる。
 
老舗の店のなかで生き延びている店は、古いしきたりに固執せずに時代に即応した活動方針を立てて経営する。それが伝統ある老舗として高い評価を得る。このことは大学の教室、一般病院の経営においても当て嵌まる。
 
私の人生において立場と、役割の果たす意味は重要であった。立場を得るには与えられた機会に果敢に挑戦する場合と、周囲から強力に要請される場合がある。
 大学時代に教授、日本麻酔科学会の会長、理事長の立場を得るために厳しい選挙戦に挑んだ。その立場を成し遂げるにはその立場に相応しい実力、実績を付ける切実感、組織の発展、人の成長を図る使命感、そして組織の円滑、円満に運営する責任感が必要であった。
 職場の上司が部下から厳しく批判される場合がある。それは上司が現場にいる機会が少なく、意思疎通がとれないので共感できない。
 仕事中に問題が生じ困惑した場合に適切、迅速な指導、支援する配慮がないので、頼りにならず信頼できない。
 上司の個人的都合、要求を押し付け、部下を犠牲にする態度をとるので尊敬できない。
 このような上司をもつ組織は、教育指導体制がとれておらず雰囲気が暗く、不平、不満が多く、やがて崩壊する。
 大相撲の部屋では、親方が協会の仕事で忙しく留守にする機会が多くなると、部屋の稽古場に緊張感がなくなり、やがて衰退していくケースがある。同様なことは対外的活動が多く教室や病院を留守にする教授や局長・院長のところにもみられる。
 
私は教授就任の挨拶で「教授の立場は横綱と同じで、実力がなく、活躍できなくなると引退するのみである。そのことを覚悟して頑張る」と述べた。教授定年後の小樽市病院事業管理者には、当時の札幌医科大学長、小樽市長から就任を強く要請されてなった。その場合の私の立場と役割は市当局、市民一般からの要望をしっかり把握すること、その実施する優先順位を決めること、情報を公開しながら強いリーダーシップを発揮して行動すること、そして市民に質の高く、信頼される医療が行われ、小樽のシンボル的病院建設に尽力することであった。さらに自分の心に秘めていたことは自分の引き際の適切な時期を考えるであった。
 
この引き際に関しては、教授現職の時に貴重な出会いと思い出があった。それはある著名な外科の名誉教授が講演会後の酒宴の席で今後3つの事から引退すると突然話された。それは自分の行った臨床、基礎研究のデータがないので学術講演は行わない。
 登山家としての判断力と体力が衰えたのでパーティーの生命の危険を避けるためリーダーにはならない。これまで男気と義理で無理していろいろ面倒をみてきたが今後余計なことはしないようにするであった。 
これらの言葉には含蓄があり、自分の引き際を考える際に参考になる。
 
私は病院事業管理者の立場をマラソンのペースメーカーの役割に譬える。それは良い成績を出すため先頭に立って選手集団を引っぱり、ゴールの10㎞位手前の地点で選手達から離れる。私は事業管理者に就任して2期8年の節目を迎え、新病院が開院し病院運営も軌道に乗ってきたので、あとは職員達がお互いに協力、実力を出し合ってゴールを目指して進むことが新病院の将来にとって望まれる。また私は医学・医療の学術活動の中で生きてきたので、原稿依頼、学術集会での講演、座長などの要請がなくなった時が引き際である。平成28年には多くの学術活動の依頼、要請があり、これまでの仕事の集大成となった。これはローソクの炎が消える直前に大きく輝く現象であり、一花咲かせることができた。ところが今年も学術活動の依頼が多くきて、その炎がまだ大きく輝いている。また当病院ではいくつかの診療科の体制強化、経営面で新公立病院改革プランの策定と実施、そして小樽市病院局長として小樽市医療行政の委員活動に携っている。これらの仕事が円滑、円満に実行されていくように自分の立場、役割を適正かつ客観的に考えて対応することを求められる。

 自分の人生は責任と義務をもって自分で考え、決断し、実行して、成果を上げる。そのためには能力、気力、体力が必要であり、このうちで体力が引き際、引退を決めるうえで最も重要な要因である。横綱千代の富士が引退を決めた時の言葉は「体力の限界、横綱として相撲を続けていく気力がなくなった」だった。この世の中を元気に活動、活躍し自分の立場と役割を立派に果たしていくには、基礎体力を鍛え、体質を改善し、体調を整えて総合体力を維持することが重要である。

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