新小樽市立病院開院10周年記念行事の企画と実施に携わって
はじめに
私は小樽市病院事業管理者・病院局長として4期16年間をこの仕事に携わり、責務を果してきた。病院職員、市職員、市議会員、医師会員、道庁職員そして両大学教室員の皆様には温かい協力、支援を頂き、円滑、的確な運営が出来たことに心より感謝申し上げる。私の最後の仕事として新小樽市立病院が10周年を迎えるに当り、その記念行事の企画と実施に携わって思うことについて述べる。
1.新小樽市立病院開院10周年開催の事情:
旧市立小樽病院は1928(昭和3)年4月1日に現小樽市立病院駐車場の場所に開院した。そして90年間かけて市内に延べ12院あった市立病院の統廃合を行ってきた。2014(平成26)年12月1日に旧市立小樽病院と旧小樽市立脳・循環器・こころの医療センターが統合・新築し、86年の時を経て一つの市立病院になった。新小樽市立病院の開院式は2014(平成26)年12月1日に実施された。その落成式・開院祝賀会は平成27年1月31日にグランドパーク小樽で盛大に行なわれた。落成式には81名、祝賀会には242名が参加した。新市立病院は時代の厳しい変化とニーズに求められて複雑で多様性のある経緯を辿り、その活動は注目された。
2.開院90周年記念行事の企画と実施:
2018(平成30)年に開院90周年を迎えた。その歴史を振り返り記録、節目として90周年記念事業が盛大に執り行われた。具体的事業として、小樽市立病院90年記念誌発刊(平成30年10月)、開院90周年記念病院まつり(平成30年10月27日)、市民公開講座、90周年パネル展(平成30年10月27日~11月17日)、90周年記念講演会(医療関係者向け、平成30年11月13日)、90周年記念市民公開講座(平成30年11月17日)が実施された。そして小樽市立病院90周年記念式典(平成30年11月17日)には参加者88名そして祝賀会には203名がグランドパーク小樽に参集され、盛大に実施された。この記念式典での式辞と祝辞の挨拶は立派で有意義な内容であった。その要約を紹介する。
1)式辞:小樽市立病院事業管理者・病院局長 並木昭義
当小樽市において大正時代の中頃から多くの市民らの「おらがまちにおらが病院をほしい」との気運が高まった。市当局はその要望に応じて、1928(昭和3)年に総合病院の市立病院と結核、伝染、精神科などの専門病院を開設した。しかし当初より病院の組織体制、経営、運営の知識、手段そして医師確保の情報などが十分とは言えず、多くの困難な事態に遭遇した。その後、1998(平成10)年頃から病院の再建と将来像について市民らの関心が高まり、医師会はじめ各方面の関係者から独自の意見、批判が盛んに出されるなど困窮した事態に陥った。この事態を打開するため、2008(平成20)年に当時の山田勝麿市長は病院事業に地方公営企業法の全部適用を採用し、病院の管理運営を専属の管理者に任せることに決断した。そして札幌医科大学今井浩三学長に協力、支援を要請した。そこで私が翌年の4月から病院事業管理者・病院局長として赴任した。この赴任に当り、周囲の人達から「火中の栗を拾うことになる」と忠告されたが、この仕事が私に与えられた使命であると決断し、喜んで受諾した。私の重要な三つの任務のうち第1は二つの市立病院の統合・新築でした。質の高い、効率的で、安心・安全の医療ができる、コンパクトな病院を建設する。第2は病院の経営改善である。患者に信頼される最良の医療を行うことを最優先して収益を上げる。第3は医師確保である。医師派遣先の大学教室にとって必要かつ希望する病院になることを心掛けた。
新病院は2014(平成26)年12月1日にめでたく開院した。その際に作成した病院の理念と五つの基本方針を旗印にして歩み、この90周年記念式典・祝賀会を迎える。当院の理念は「市民に信頼される質の高い総合的医療を行う地域基幹病院を目指す」である。この趣旨は三つの要素から構成される。一つ目は質の高い医療を行う。それには診療の質、患者安全・サービスの質、病院経営の質、教育・人材育成の質、地域医療実施の質を高める。二つ目は総合的医療を行う。それには診療に当るすべての部門、職員が連携して医療を行う。そして医療のセンター化とチーム医療を実施する。特に当院ではがん診療センターを設置して地域がん診療連携拠点病院を運営する。三つ目は地域基幹病院に相応しい体制作りと活動を行う。それには当院の最新の医療設備、医療機器を他の医療機関の皆様にも活用してもらう。そして各医療施設との連携を深め、患者の紹介、逆紹介を盛んに行なう。さらに必要に応じて医師派遣を実施する。重要なことは地域の医療従事者、患者、住民に対する広報、教育活動をしっかり実施する。当然地域の救急、災害医療にも力を注ぐ。四つ目は健全で自立した病院経営を実施する。そのために、しっかり対策を立て経営改善を進める。
2)祝辞:来賓5名の祝辞の要約を述べる
(1)小樽市長:迫俊哉様
小樽市立病院は多くの市民の方々から公立病院設立の強い要望を受け、昭和3年に民間病院を買収し、市立病院として発足した。この間、特に思い出されることは、市として長年の懸案であった二つの病院の統合・新築である。当時は市の財政状況も厳しい中であったが、将来を見据え、山田市政において建設を英断し、中松市政の平成26年に新病院が開院する。現在は、市民に信頼される質の高い総合的医療を行う、そして地域基幹病院を目指すことを基本理念として運営する。今後とも医療分野において市立病院が大きな役割を果すものと期待する。
(2)小樽市議会議長:鈴木喜明様
現在、全国の自治体病院を取り巻く環境は、急速に進行する超高齢化社会により、必要とされるニーズが複雑多様化している。このことから安心して良質な医療を提供して頂くためにも、市議会として、経営安定化対策推進や、医師確保対策等の実現に向けて国を初めとした関係機関に対し、強く要望して参る所存である。
(3)全国自治体病院協議会会長・北海道医師会副会長:小熊豊様
小樽市立病院におかれても、今後を見据えて地域の他の医療機関との住み分けや、連携等の課題がある。本日ご参集の皆様が関係各位のご支援、ご協力のもと、見事に乗り越えられ、当地域のリーダーとしての機能を継続する。そして地域づくりそのものに多大の役割を今後も果たされることを期待する。
(4)小樽市医師会長:阿久津光之様
市立病院の新築統合問題は2001(平成13)年に市当局、議会、医師会、市民を巻き込んでの論争となり、13年という長い期間を経て新築・統合された。硬直化した新築・統合問題の中、2009(平成21)年4月に病院局長に並木昭義先生が就任され、病院全体に強い指導力を発揮し、着実に新病院の青写真を提示して頂いた。2011(平成23)年8月発刊の小樽市医師会だよりでは市立病院統合における先生の強い思いや、当時の市当局と医師会に対するご意見などを打診し、医師会にも大きな影響を与えたものと思う。小樽市医師会と小樽市立病院との関係性は緊密なものがあり、特に市立病院内にあるオープン病棟が、病診連携のもと市民に対しかかりつけ医としての入院医療が展開された。このオープン病床も今年で開設50周年を迎え、本日共に祝うことになる。これからもオープン病床の維持運営に貢献できるよう努力する所存である。
(5)北海道後志総合振興局保健環境部長:原田智史様
私ども北海道庁として、これまで、小樽市立病院には、精神疾患患者の緊急事案発生時の対応のほか、認知症疾患医療センター機能をはじめとして、地域がん診療病院、地域災害拠点病院など、多岐にわたる重要な役割を担っている。また他の医療機関との連携にも積極的に取り組まれるなど、小樽市民にとどまらず、広く後志管内の住民にも安全な医療の提供に尽力することに厚く感謝申し上げる。関係者の皆様には10年後の「創立100周年」に向けて、今後とも小樽・後志管内における安全な医療の提供のために、ご活躍されることをお祈り申し上げる。
3.最近10年間の重要な出来事の意義:
1)大変興味あることは2014年に新小樽市立病院が開院され、4年後の2018年に90周年記念式典・祝賀会が開催された。そして2024年に開院10周年記念式典が開催され、4年後の2028年に創立100周年記念式典・祝賀会が開催される。この2つの出来事が同様の歴史的経緯によって実施されることは、良い因縁に恵まれる真にめずらしい現実である。今回の10周年では正式な祝賀会を実施せずに、100周年の時に盛大に実施する予定である。
2)小樽市立病院誌第4巻(2015年)には2つの市立病院の統合と開院後の新病院の業績等を掲載する。本格的な病院誌発刊に感激する。
3)2016(平成28)年に病院機能評価の認定を受け病院のハード、ソフト面の体制を整える。2021(令和3)年に病院機能評価の更新審査に合格し、評価に相応しい病院運営に努める。
4)当院は2018(平成30)年には開院90周年を迎える。それまでの歴史、実績をしっかりまとめて後世に残すことが我々の使命と考え、「小樽市立病院90周年記念誌」を発刊する。
5)改革プランの外部評価委員会から平成29年度の収入面では高い評価を得たが物品管理、医療材料費を含め支出面での改善を指摘される。当院は病床稼働率を90%に設定したが看護師の負担が大きくなり看護師不足も生じ、一時的に病床数の削減を余儀なくされる。
6)2019(令和1)年、北海道胆振東部地震における当院の対応について、病院誌に注目の論文を掲載する。この論文はこれからの小樽市の災害対策を円滑、適切に実施する貴重な資料として活用される。
7)2020(令和2)年の当院は新型コロナウイルス感染症で始まり、1年間の対策と対応に明け暮れる。今回のコロナ感染災害の対応には昨年発刊の病院誌に掲載された地震災害時対応の論文が貴重な資料として、活用される。病院誌の価値が高まる。
8)2021(令和3)年4月には長年念願の地域がん診療連携拠点病院に指定される。小樽・後志地域では唯一のがん診療指導病院として地域の診療と職員、住民の教育に努める。
9)2021年に当院での医師数増加による医局環境の狭小化、医療従事者使用の会議室等の不足などが問題となる。その改善のため民間資金を活用する。市立病院敷地内薬局設置が了承され、2023(令和5)年5月に薬局は開局する。
10)2022(令和4)年から地域医療支援病院の承認を取得のため本格的に準備を進める。この病院は地域医療確保のため都道府県知事が承認する。特に救急医療の提供や病院の施設・設備を共同で利用できる体制、地域の医療従事者の質の向上を図るための研修を行うなど、地域医療の中核を担う役割がある。2023年10月に道庁に申請し、2024(令和6)年2月に審査を受け、3月に審査に合格し、4月から地域医療支援病院の活動を開始する。
11)最近10年間の当院は地域医療はじめ質の高い医療を実施するための整備に多大の時間と負担を要する。しかし全職員のやる気、協力、支援体制が整って承認、認定を得ることが出来て大変誇らしく、喜ばしい限りである。
4.新市立病院開院10周年記念行事の企画と実施の取組:
当院の理事会メンバー全員が協力、担当して広報、企画、実施の活動に取り組む。
1)事業
(1)新病院広報著書作製:責任者有村佳昭院長。
当院における病院の特徴、医療体制、診療内容について、患者・住民向けに分かりやすく解説の医学書を発刊する。
題名「現在検討中」出版社アイワード
(2)第13巻病院誌発刊、特集として式典・座談会の掲載:責任者金内優典副院長。
座談会:並木昭義(病院局長)、馬渕正二、近藤吉宏、信野祐一郎(歴代病院長)、有村佳昭(病院長)
題名:「新市立病院10年の軌跡と展望」。
(3)病院まつり(11月23日):責任者越前谷勇人副院長、佐々木真一事務部長・理事、濱崎弓子看護部長・理事。
実施事項:病院見学、医療体験、講演、作品販売。
場所:病院1階、2階のロビー、外来部門。
2)講演会、式典(場所:2階講堂)
(1)特別講演Ⅰ(医療従事者向け、10月21日18:00~19:30)
講師:浜本康夫東京医科歯科大学臨床腫瘍学分野教授
題名:「がん薬物療法の現在・過去・未来~分子標的薬・免疫療法・ゲノム・ADC制剤~」
司会:金内優典副院長。
(2)特別講演Ⅱ(医療従事者向け、11月14日18:00~19:30)
講師:武冨紹信北海道大学消化器外科学分野Ⅰ教授
題名:「当科におけるロボット支援手術の導入と治療成績」
司会:越前谷勇人副院長。
(3)特別講演Ⅲ(医療従事者向け、11月22日18:00~19:30)
講師:仲瀬裕志札幌医科大学消化器内科学教授
題名:「炎症性腸疾患診療の近未来」
司会:金戸宏行副院長
(4)市民公開講座(一般市民向け、11月23日14:00~16:00):責任者:新谷好正副院長
①講師:櫻木範明特任理事・北海道大学名誉教授
題名:「女性のあなたが知っておくべきエストロゲンの話ベスト3」
司会:山下登理事・泌尿器科主任部長
②講師:佃幸憲理事・整形外科主任部長
題名:「人生100年時代を健康に生きるための骨粗鬆症治療~骨折でねたきりにならないために~」
司会:髙川芳勅理事・循環器内科主任部長
※講演会場は病院2階講堂とZoomを用いて市内、周辺町村においても参加できるハイブリッド形式で行う。
3)小樽市立病院開院10周年記念式典(12月1日13:30~17:00)、責任者:新谷好正副院長
(1)新小樽市立病院10年の歩み(13:30~13:50)、スライド・動画紹介:深田穣治副院長
(2)挨拶(13:50~15:30)
①式辞:並木昭義病院局長
②祝辞:市長、医師会長、薬剤師会長、市議会議長、保健所長、その他来賓者予定
(3)特別記念講演(参加者制限無し、15:45~17:00)
講師:寳金清博北海道大学総長
題名「地球・社会・医学」
司会:有村佳昭病院長。
(4)式典懇親会(12月1日17:30~19:30)
(5)仕事納め、10周年記念行事打ち上げ懇親会(12月27日18:00~20:30グランドパーク小樽)、責任者中林賢一副院長
おわりに局長メッセージを贈る
新小樽市立病院開院10周年記念行事の企画と実施に携わって思うことがある。当院では日常業務の対応をしっかり理解して活動する。患者対応で良き人間関係を構築する。そして医療従事者としての適正な態度に努めることが大切である。そのことに関して述べる。
1)当院の果たすべき役割・機能の提供と実地:
①災害拠点病院として、救急医療、高度急性期機能の推進、小児・災害・精神などの不採算・特殊部門に関わる医療の提供。
②後志圏域に唯一の地域がん診療連携拠点病院として、専門的がん医療の提供、連携協力体制の整備及び患者への相談支援や情報提供。③「かかりつけ医」を持つことを推進し、患者の紹介の積極的な実施により、後志圏域で初となる「地域医療支援病院」の運営。
④限られた医療資源である医師・看護師を確保しつつ、地域全体で効率的に活用すべく、基幹病院として関係医療機関への派遣。
⑤後志圏域の精神医療の提供を踏まえながら認知症患者の診療、以上を実施する。
2)患者対応に関する適切な知識と実践:
①人は自分の都合の良いように判断して発言し、聴いて行動する。そのことをよく理解してお互いに思い込み、誤解、わがままな態度が生じないように気配りする。そして事実の確認と解決の歩み寄りが大切である。
②重要なことは話しの内容を文書化、論文にしてとどめておく。それでお互いに理解し、信頼し合える。私は自分の考え、当院の事情、国内の医療状況など16年間で30編を「小樽市医師会だより」に掲載して、医師会の先生方とのコミュニケーションに活用し、効果を上げる。
③具体的な事例の活動は学会発表、雑誌掲載だけでなく対面、電話、FAX、メール等を最大限活用して情報交換することが大切である。
3)医療に携わる者の適正な心得と行動:
①自分の立場と役割をわきまえて活動する。私は病院事業管理者・病院局長として小樽・後志地域の医療を冷静、客観的に対応する。
②国の医療方針は「機能分化と連携強化」である。それを活用することで、当小樽市立病院と小樽・後志地域の医療機関との医療および人間関係において良好な状況がみられる。そして病院の役割分担と診療のセンター化、チーム医療が実施される。
③当院は新病院開院10年以内に日本病院機能評価、地域がん診療連携拠点病院、地域医療支援病院の承認、認定そして病院敷地内薬局の導入による医療環境整備が実施され、医療の質が上昇する。そのような環境変化に相当する医療を実施することを心掛ける。
4)お知らせ
今回の記念行事は10月末から12月末まで開催される。医師会の先生方、はじめ市民の皆様が振るってご参加することを願っている。
なお、本行事のプログラムは本文に掲載されているのでご覧下さい。もし何かご質問、ご要望がありましたら、事務局患者支援センター(電話0134-25-1211、内線1611、メールアドレスkanjasien@otaru-general-hospital.jp)まで、ご連絡下さい。