病院誌巻頭言の意義と活用

私は小樽市立病院に就任時より、病院誌の制作と発展および論文の作成と掲載に力を尽くしてきた。特に巻頭言にはその年の当院における最重要事項のエッセンスが集約される。毎回私の思考、方針、希望についてメッセージを伝えてきた。本稿で各巻の巻頭言の内容を要約して、当院の動向を振り返る。

  1. 創刊号:平成24(2012)年に小樽市立病院誌の創刊号が発刊されたことは、これから新市立病院に向けて充実と発展を図っていく上で重要である。
    病院誌には職員の仕事や業績、各診療科や部門の活動実績、病院の統計や紹介などを原著、総説、症例報告として論文掲載する。私は本号に「論文発表に取り組む目的と意義」の総説を掲載した。
    論文作成にはチームワークが大切になるため、良き人間関係の形成に役立つ。この関係を円滑に行うグループは、質の高い論文作成すなわち仕事ができる。
  2. 第2巻:病院誌発刊には目的がある。1つ目は院内に向けての情報提供と啓発活動である。2つ目は院外に向けての広報活動である。3つ目は論文掲載の意義である。論文作業の過程で学んだことは、自分の成長だけでなく若手の育成にも役立つ。
  3. 第3巻:病院誌の発刊にはその病院の積極性と活力、職員のやる気と覚悟そして周囲の人達の支援と期待の3条件が必要である。
    病院誌の編集委員会は本誌あるいは他の学術雑誌に掲載された論文の中から最優秀、優秀賞を選出して表彰した。作成する論文は宝石にたとえられる。宝石は原石を一生懸命磨くほど美しく輝く。さらに他人の協力で自分に気付かないところも磨かれて、一層輝きを増してその存在価値が後々まで残る。
  4. 第4巻:新病院では、平成28年2月に初めての病院機能評価受審のため、チーム医療の円滑、円満な実施に取り組んでいる。チーム医療では各部門、職員の立場、役割を尊重し、それぞれ責任をもって協働作業をしなければならない。このチーム医療は論文の作成や発表に活かされる。論文作成に当たり大切なことは、a.論文には旬があり、時間が経つと価値が下がるので集中して早く仕上げる、b.論文には起承転結が必要、である。すなわち目的があり、それを明らかにする手段を用い、得られた結果を比較検討し、結論を導き出す。このストーリーが大切である。
  5. 第5巻:病院誌は学会誌、商業誌とは異なり、病院特有の事実、活動、情報を職員および他の医療機関に提示する役割がある。
    本巻の目玉は、病院機能評価の受審活動に関する2つの論文である。経緯と講評は、事務部の中千尋氏の「病院機能評価初受審を終えて」、そして結果と見解は、私の「新小樽市立病院の運営面に関する外部評価の概要と見解」に掲載した。
  6. 第6巻:全国の各施設からご恵贈いただく病院誌から各病院の活性度や勢い、すなわち診療面、経営面、学術面、そして働く環境面の状況、レベルをよく知ることができる。本誌はこれからも内容の量、質を高めて継続して発刊していくことが、職員の成長、病院の発展に必要である。
  7. 第7巻:平成30(2018)年度の本巻は、特集「小樽市立病院90周年記念関連行事」を組み込んで刊行した。
    記念論文には当病院の90年間の貴重な歴史の歩みを掲載しており、当病院の過去、現在、将来を知るのに役立つ。
    これから当病院が激動の世の中を生き抜くためには、組織に勢いと構成する人たちの意気込み、思いやり、そして自己中心的な言動を慎しみ、信頼の絆でつながることが大切である。
  8. 第8巻:病院誌にはその病院が時代の要請によって活動している様子が反映される。
    令和元年度の本巻で注目すべき論文は、岸川和弘医療部長編著の「北海道胆振東部地震~小樽市立病院はどう動いたか?」の総論と各論の2編である。この論文はこれからの小樽市の災害対策を円滑、適切に実施していくために貴重な資料として活用される。
  9. 第9巻:令和2年の当院は新型コロナウイルス感染症の対策と対応に明け暮れた。8月19日に院内クラスターが発生した。直ちに院内対策会議のメンバーを中心に保健所、本庁そして北海道、国からの応援を受けて、懸命な対応により10月2日に収束宣言を行った。この間の活動実態を取り上げるのが、本巻の重要な役割である。新型コロナウイルス感染症に関する4編の論文を掲載した。金内優典副院長は「小樽市立病院での新型コロナ感染症対策と院内集団感染症」、有村佳昭副院長は「発熱トリアージ外来開設」、越前谷勇人副院長は「コロナ災害に対する小樽市医療機関の組織的動向」そして設備管理室の坂本保幸氏は「コロナ陽性患者受け入れに伴う設備管理対応」の貴重な論文であった。今年度の掲載論文の最優秀賞と優秀賞の受賞者には、これからも患者、家族に喜ばれる仕事、研究を継続するとともに、後輩達に研究の取り組み方、論文の書き方などを教育、指導するように激励した。私は最近教育の重要さを強く認識する。組織は人なり、人には教育が必要であり、教育は信頼し合う人間関係、人材育成である。近年当院では人材が成長してきており頼もしく思う。
  10. 第10巻:病院誌として10年の節目を迎える巻で、今年中の発刊を目指す。令和3年度の注目する課題は、現行の新型コロナ感染症対策の継続、4月に新たに指定された地域がん診療連携拠点病院の役割、6月に更新になった日本医療機能評価機構の認定病院の責務が円滑、円満に実施されること、そして働く環境、体制を整備し、働き方改革を早急、適切に進めることである。

おわりに
新型コロナウイルス感染禍後の医療界は確実に新しい時代を迎える。従って時代のニーズに即応する病院誌の発刊が不可欠である。
病院の質と病院誌の質には強い相関がある。病院の発展には質の高い病院誌の発刊が必須になる。病院誌の巻頭言を活用して意義のあるメッセージを発することである。

このページの先頭へもどるicPagetop

À メニュー
トップへ戻るボタン