最近の院外活動の内容と意義

はじめに

 医師個々人の人生はその人の医学・医療界における生活、教育、仕事の環境に大きく影響を受ける。

私は22年間の教授在職中は学会(日本麻酔科学会会長・理事長)、病院会(札幌医科大学医学部附属病院長)、医師会(北海道医師会常任理事)、行政(北海道総合保健医療協議会副会長)など各方面において多くの要職に就き、活動する機会に恵まれた。特に大学で主宰する教室の仕事、実績が高く評価されるに伴って大学外での仕事、要職への依頼が多くなった。同様なことが小樽市病院事業管理者に就任して7年を迎える今日においても生じることは運命的なものを感ずる。そこでここ1~2年間に病院外で活動した内容と意義について述べる。

 

1.全国病院事業管理者協議会

(1)本協議会の実態

 本会は平成14年に設立された。本会の目的は会員が管理する病院事業の健全化に資することである。会員は地方公営企業法を全部適用している団体の管理者で本会の目的に賛同して加入した者である。
 本会の事業は①定例会議「全国病院事業管理者・事務責任者会議」の開催、②病院事業管理者を対象とする研修会の開催、③機関誌及びメーリングリストによる会員相互の情報交換である。
 地方公営企業法全部適用団体は平成27年4月で213団体363病院であるが、当協議会への加盟団体は160団体305病院で全適団体全体の75%が加盟している。当小樽市立病院は平成21年に加盟した。
 本協議会の役員会は会長、副会長3名、幹事9名、監事2名、名誉会長、顧問の17名で構成される。私は平成22年より幹事になる。役員会のメンバー達の有する見識、経験、人脈にはすばらしいものがあり感心する。役員会の共通の認識は①病院事業管理者と病院長との立場と役割の相違点を明確化していく。②自分の病院事業以外に、地域全体における医療がどうあるべきかまで関わりをもつ。③地域医療と病院を管理するガバナンスをもつことである。

(2)本協議会における私自身の活動

1)第14回全国病院事業管理者・事務責任者会議:この会議は8月27日・28日小樽で開催される。この会議では特別講演として2題、「地域医療構想の最近の情報と展望」と「自治体病院のこれからの課題と戦略」そして基調講演の「地域医療構想にどのように対応すべきか」およびシンポジウムとして2題「地域医療構想を踏まえた自院のあり方-病床機能の選択について-」と「新たな公立病院改革ガイドラインへの対応について-病院事業管理者の立場から-」が取り上げられる。
 これらのテーマは現在医療界で最も重要な話題となっているので講演者と参加者で、熱心な討論を行い、病院事業管理者の方向性と適切な態度を探ることにする。そしてこれから各地区で開催される地域医療構想の実現のための協議の場で役立つことを期待する。

2)平成25年度全国病院事業管理者研修会:この研修会のテーマは「失敗に学ぶ」であり、6名の講師が指名された。私は「医師会対応」についての講演が依頼された。平成19年頃から当小樽市立病院に関する統合・新築問題が苦況に陥っていることが、新聞、インターネットなどマスコミで全国的に大きく取り上げた。多くの会員達も大いに注目しており、同情あるいは激励の言葉をかけてくれた。この協議会の幹事に推薦されたのも何とか支援したいという好意からであった。また本協議会の親組織である全国自治体病院協議会の邊見公雄会長は当院のことを大変気に掛けており、本年1月の新病院落成記念祝賀会で、温かい挨拶をされた。本研修会の企画者は市当局と医師会の対立状況をどのように対応し解決したかについての講演を依頼した。私は病院事業管理者として冷静かつ客観的にさらにリーダーシップを発揮してこの問題に取り組んだ。対立の大きな原因は市当局がこの病院建設を大規模公共事業工事の一環として捉えていたが医師会は病院の歴史的背景と患者、市民から求められる医療に重点をおいていたことにあった。両者は初期段階から考え方、対応に行き違いが生じ、感情的な溝が出来上がってしまった。私は両者の橋渡し的役割を果しながら最終的にトップダウンを発揮して統合・新築を成し遂げた。なお、この発表内容の論文は研修会集録集に掲載された。

3)機関誌に掲載:会報第18号(平成26年7月)に私の信条を寄稿した。
 私の大学や学会の現職時に大切にした信条は、①「プロの本分を自覚する」:与えられたチャンスは感謝して受けること、役割は謙虚な態度で果すこと、仕事は責任を持って行うことである。②「オイアクマない精神をもつ」:怒らない、威張らない、焦らない、腐らない、負けない態度で対応する。③「人間万事塞翁が馬から学ぶ」:何が幸いするかしないかわからないので、結果に対して一喜一憂せず堂々としている。そして私は教授退職から今日までに得た貴重な信条は、④「立場と役割を知る」:自分一人では何もできないこと、自分は周囲の人達によって活かされていること、自分は人に喜ばれ、役に立つ仕事にチャレンジし、結果を出すことで本当の生き甲斐を得る。⑤「引き際を考える」:周囲から要望されて立場、仕事に就いても、常に自ら適切な引き際を考えることであった。

 

2.北海道総合保健医療協議会地域保健専門委員会

 平成26年6月に第1回地域保健専門委員会が開催された。本委員会は地域保健にかかわる重要事項について協議する。本委員は15名で構成される。ただし専門的事項に関し必要な場合は臨時に委員を加えることができる。この度本委員会では北海道におけるがん診療体制を重点的に取り上げ、そのため5名の専門の臨時委員が招聘された。道内3大学病院の腫瘍センター長と都道府県がん診療連携拠点病院の北海道がんセンター院長、そして二次医療圏のがん診療指定病院である小樽市立病院の局長である。
 現在取り上げられている議題は①北海道がん対策推進計画、②がん診療連携拠点病院の更新審査、③がん診療連携指定病院の新規審査と指定、④がん医療提供体制のあり方、⑤がん登録推進法施行の状況、⑥がん対策の基金の設立等である。これらに関して専門的立場から意見を述べる。私個人としては当病院が新病院になり、がん診療に関する医療機器が整備されており、患者数の増加と放射線治療医の復活を行って、指定病院から二次医療圏に必要な拠点病院を目指す。

 

3.科学研究費委員会-審査第三部会、医歯薬学Ⅱ小委員会

 日本学術振興会からの要請で平成26年度の科研費の審査員になった。受諾した理由は審査領域が麻酔科、泌尿器科、産婦人科であり、若手臨床医の奨励研究であること、当院の各診療科に北大、札幌医大の大学院生が勤務していること、大学の共同研究施設になっていることなどからであった。
 私の担当委員会は46件の研究で麻酔科12件、泌尿器科16件、産婦人科18件であった。 評定要素は①研究課題の学術的重要性・妥当性、②研究計画・方法の妥当性、③研究課題の独創性及び革新性、④研究課題の波及効果及び普遍性について4段階で評価する。そして⑤研究遂行能力及び研究環境の適切性についての評価を加えて5段階の総合評価を行う。
 その結果を本部の小委員会の24名の委員の総合評価で採択が決められる。
 久し振りの審査であり公平公正に行うため時間がかかり、大変な作業であった。私はその研究者が臨床の現場から自分でテーマを見付けたのか、自分で行える実力、実績があるのか、それを臨床に還元していけるのかを重要視して評価した。私は今年度も審査員を要請されたが年齢的に心身とも審査を行うには負担が大きいこと、また臨床、研究の現場から暫く離れており最近の進んだ学問、研究に対して適正な審査を行うことは困難であると判断し、辞退した。

 

4.北しりべし定住自立圏共生ビジョン懇談会

 平成26年9月に北しりべし定住自立圏共生ビジョン懇談会が開催された。委員は医療関係で小樽市医師会の副会長、小樽市病院局の局長、学術経験者、小樽の商工会議所、物産協会、観光協会、社会福祉協議会、公共交通、中小企業家同友会、積丹、古平、仁木、余市、赤井川の5町村からの代表者など15名であった。多職種多方面からの人達の集まりの会でありいろいろ切実な意見や実情を知り、勉強になった。
 本会の目的は平成27年度~平成31年度の第2次北しりべし定住自立圏共生ビジョンの策定を行うことである。それが平成27年4月1日に完成した。

医療に関する事業の具体的内容は:

1)初期救急医療体制の維持・保持事業

①夜間急病患者の救急診療を円滑に行うため、小樽市夜間急病センターの管理運営および②土曜日及び休日における第一次救急医療体制の確保のための在宅当番制の運営を小樽市医師会へ委託する。③後志圏域内の病院群による輸番方式により、休日・夜間等における診療の受入体制の整備に要する経費を負担する。

2)小児救急及び周産期医療体制支援事業

①第一次救急医療施設で処置できない小児救急患者に対する医療を確保、および②圏域内の周産期医療を維持・確保する。このために、唯一産科・小児科の病床を併せ持ち、地域周産期母子医療センターとして位置付けられてる北海道社会事業協会小樽病院に経費の一部を助成する。

3)地域医療連携推進事業

①圏域内において二次医療までおおむね完結できる医療体制の確立を目指すために、小樽市立病院、公的病院が地域連携クリニカルパスを推進するなど機能分担の下、ネットワーク化を推進する。②小樽市立病院が地域の医療従事者の資質向上を図るための地域医療連携センターとしての機能の充実を図りながら、地域医療体制の維持・確保を行う。

 

5.小樽市倫理審査委員会

 平成27年6月に小樽市倫理審査委員会委員が開催された。委員5名は医学・医療分野から小樽市医師会の女性会員と小樽市病院局の局長、倫理・法律学分野から小樽商大の教授と准教授そして学識経験者である。
 この設置要綱は小樽市保健所で行う人を対象とする又は人体より採取した試料を用いる調査研究に関し、倫理的および社会的観点から審査を行うため「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(平成26年度文科学省・厚生労働省告示)」に基づき運営に必要な事項を定めた。
 第1回委員会では保健所より「小樽市の乳幼児を持つ子育て世代に関する意識調査」の申請があり審査した。その結果、承認することにし、公表する。
 これから各施設で実施する臨床研究、調査等患者、市民のプライバシーに関わることは倫理委員会にかけ、病院の承認のもとに行うことが必須になる。

 

おわりに

 5つの会合での出会いと意義から得られた大事なことは①自分にとって良縁になるのはその会合で評価され、人脈が作られること、②自分にとって幸運になるのは、その会合で活躍し、成長する機会が与えられること、そして③自分の生命が生き生きするのはその会合の仕事が世の中に求められ、役に立っていることを実感することであった。

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