2人のノーベル賞受賞者に出会い印象に残ったこと

 私が昨年印象に残ったことは、2人のノーベル賞受賞者との出会いであった。2人とは、2010年ノーベル化学賞の鈴木章(85歳)北海道大学名誉教授と根岸英一(80歳)米国パデュー大学特別教授である。
 2人は米国パデユー大学のハーバード・C・ブラウン教授の師事を仰ぐため留学した。留学時期は同じでなく、鈴木先生が帰国した1年後に根岸先生が帝人の研究室からブラウン先生のもとに留学している。留学の理由は、鈴木先生が日本の書店でブラウン先生の有機化学の学術書に出会い感激したこと、根岸先生がブラウン先生の講演を聴き、将来必ずノーベル賞を受賞する人であると直感したことだった。ブラウン先生は1979年にノーベル化学賞を受賞した。彼が化学の道を選んだきっかけは彼女(後の奥様)からプレゼントされた化学書であった。ブラウン先生と鈴木先生は1冊の本によって人生が決まった。
ブラウン先生はこの奥様を信頼し、大切にされた。根岸先生はその夫婦と家庭の姿を身近で見て感動した。ブラウン先生は90歳の記念講演会の時に鈴木君と根岸君をノーベル賞候補者として推薦すると明言した。
鈴木先生はブラウン先生から彼の研究したカップリング反応がすばらしいと褒められ、鈴木カップリングと名付けてくれたことに感謝した。
一方根岸先生はブラウン先生の招きで他大学から再びパデュー大学へ移籍し、教授に就任した。彼はブラウン先生のノーベル賞受賞式に随伴者として出席した。現在はブラウン先生の後継者としてパデュー大学ブラウン化学研究室特別教授の職に就いている。そこでの研究で根岸カップリングを発見した。
 2人の立派なところはこのカップリング技術の特許を取得していないことである。その理由は特許を取得しなければ、その成果を誰でも気軽に使えるからだと述べた。
ブラウン先生のモットーは自分に強い信念があるならば周りに惑わされることなく、自らの道を突き進んでいくことであった。
根岸先生は日本での講演で夢の実現には競争は欠かせぬ、勉強、スポーツ、芸術などで競争しながら全力を尽すことによって、夢をかなえられると強調した。
 またブラウン先生は小さな発見をきちんと研究し続ければやがて大きな成果になると語った。鈴木先生は希望や夢は人から与えられるものでなく自分でみつけ出すものである。それには自分自身で行動する勇気をもつことが大切と述べた。
 さて、私は根岸英一先生に昨年5月の岡山大学麻酔・蘇生学教室開講50周年記念式典、そして鈴木章先生には10月の函館での第54回全国自治体病院学会で出会った。両先生とはそれぞれの懇親会で幸運にも隣席でお酒を飲みながら会談することができた。
2人に共通する印象は、外見に威厳があり後光のさす雰囲気であるが直接面すると明るい笑顔、元気はつらつとした声、話にユーモアがあり、相手を気遣うやさしさ、温かみのある態度で感動した。両先生とそれぞれ記念写真を撮ったことは思い出に残った。
 根岸英一先生は講演の中で化学者として研究するに当たり心掛けてきたのは熱意をもって野心的に挑戦する、基礎的なことをしっかりとかつ広く身に付ける、そして創造的に物事を進めていくことであった。自身のノーベル賞受賞に対しては50年間思い続けていれば夢はかなうとあきらめずに継続して研究してきたお蔭である。現在自分を幸せにする4条件は健康、家庭、仕事、趣味に恵まれることで、家庭が仕事より順位が上にある理由を聞くと、奥様、娘、孫達との生活、交流は自分の生きがいのため最も大事にしている。明日一度米国に戻り孫娘の卒業式に出席し、またすぐ日本に戻ってくるのだと嬉しそうに語った。
 鈴木章先生は講演の中で、日本は資源のない国なので日本独自の付加価値の高い、人の役に立つものを創り出し、それを海外に輸出して財源を得なければ日本は生き延びていけない。そのことをしっかり自覚して、きちんとした仕事、研究を行うことが大切であると語った。
2人とも日本の若い人達に国際的な経験の必要性を強調した。根岸先生は勇気と元気を出して、海外に出て活躍する夢を持ち続けることを勧めた。
 鈴木先生は自分のため、日本のため海外に出て、世界の多様な人々の中で身を置き切磋琢磨して、世界に通ずる活躍をすることが大切だと述べた。実は鈴木先生は私と同じ高校(苫小牧東)の14年先輩で、隣町に住む日高線の汽車通学生であった。
私は4年前、鈴木先生に手紙と私の著書を送った。返事の手紙には、私とまだ面識がないが医大にいると、聞いていて、会える機会を楽しみにしていることが書かれていた。学会の懇親会の時に自己紹介すると、嬉しいことに鈴木先生は私のことを覚えていた。その時の会話で今年ノーベル医学生理学賞を受賞した大村智先生を受賞候補者として推薦し、受賞決定後に彼から喜びの電話があったことを嬉しそうに話した。鈴木先生はブラウン先生と同じことを大村先生にされた。
今回この2人のノーベル賞受賞者との出会いから、人の運命、相性、因縁の不思議さと大仕事をされた人の人生訓のすばらしさが印象として残った。

このページの先頭へもどるicPagetop

À メニュー
トップへ戻るボタン