新市立病院建設の進展状況を語る
本論文では新しく市立病院の建物を造り、組織を創ることが進行し、発展している有り様についての思いを述べる。
1. 新市立病院の存在意義
新市立病院は2つの老朽化した病院を1つに規模を縮小するが最新で安全かつ機能的な建物そして安心かつ質の高い、総合的な医療が行える組織を目差して建設が行われる。
1)自治体病院の役割:公立の市立病院は当該地域の一般医療機関では満たし得ない質的水準の医療を行うための施設、設備等を有し、地域の医療機関の中核として、地域の医療水準の向上に資する総合病院である。
- 小樽・後志地域での役割:小樽市は北後志定住自立圏の中心都市であり、当然新市立病院が医療の中核的役割を担うことになる。平成23年5月の北後志町村長会議において新市立病院建設の概要を説明した。5町村長共に新市立病院への期待が大きく、ドクターヘリでの搬送を含め救急患者の円滑な対応の要請があった。
- 災害拠点病院としての役割:市立病院は後志地域唯一の災害拠点病院である。平成23年3月末の後志保健医療福祉圏域連携推進会議では今回の東日本大震災、福島原発事故のことが大きな話題となった。東北地方で地震、津波発生直後から活動できた病院は建物が免震化、高台にある、ヘリポートが活用できるなどの3条件が揃っていた。新市立病院はそれらの条件を満たすことを説明した。
2)市長選挙結果の評価:山田前市長の政策を引き継いだ中松氏が新市長に選出された。病院問題に関しては中松氏は「より良い医療の提供」、他の2候補者は「病院体制と経営の見直し」を強調した。これまで私は新市立病院建設の目的と意義についての理解を求めて議会はもとより、平成22年8月の医師会との公開討論会、11月の全町内会と市の定例会議、平成23年2月の小樽商工会議所の委員会で発表し、また就任以来2年間で7回広報おたるに掲載して説明した。北海道新聞の小樽市長選分析記事は妥当であった。
それは中松氏の新市立病院計画の着実な推進などの政策がとりわけ高齢者から評価された。2候補者が病院問題を出したおかげで中松氏が逃げ切った。投票結果から市立病院問題の早期決着が民意といえるなどであった。
3)中松市長のメッセージ:新市長との面会を企画した。5月の両病院医局合同歓迎会に市長をお招きし、開会に先立って市長から挨拶を頂いた。その時の市長と私の挨拶の内容は市および病院のホームページの病院局長メッセージに掲載してある。
2. 新市立病院建築工事
1)北海道医療施設耐震化臨時特例基金の交付:当該事業は災害拠点病院である本市の新病院にとって財政効果も大きく有利なため、新病院建設の財源として導入するため申請したところ8億円が交付されることになった。これにより建物を免震化構造にし、大地震に強くそして安全、安心なものにできる。
2)建設計画:平成23年3月の本議会で実施計画の予算案が通過したのでこれから本格的な建設計画が実施される。平成23年12月議会に工事予算案提出、平成 24年1月頃から入札に向けての作業が行なわれ、3月下旬には工事着工する。そして新病院の本体工事には2年間を要するため、平成26年3月に竣工し、夏頃に開院の運びとなる。
なお建設費用の起債を受けるため道と入念な話し合いを行なった。起債計画書は4月末に当局から道にそして5月末に道から総務省に提出した。当病院は現時点で起債承認の4条件を満たしており、10月末に国および道から許可を受ける。
3. 新市立病院の設備の特徴
1)へリポートの設置:新病院は迅速な救急患者の受入れやより高度な医療機関への搬送および災害時の患者搬送や物資などの輸送を円滑に行うためへリポートを設置する。屋上へリポート階から直接、救急部門や手術部門へ搬送できるエレベーターを設置する。平成22年度の小樽市のドクターヘリ利用数は17例で後志地区から小樽への搬送は4例、小樽から札幌、美唄方面に13例が搬送された。
現状として特に冬期間でのヘリポートの場所の選定に苦労すること、患者・家族が小樽での治療を望むこと、消防機関覚知から医療機関収容までの所要時間はドクターヘリを使用した方が約1時間短縮され、有用性が高いことなどが上げられる。
従って新市立病院にヘリポートが常設されることにより利用度が高まる。なおこのヘリポートは市内の他の病院、医院も大いに利用することが重要である。
2)ハイブリッド手術室の設置:新たな北海道地域医療再生計画の策定についての応募があった。新市立病院として脳卒中、急性心筋梗塞等、救急連携体制推進事業としてハイブリッド血管造影装置を手術室に設置する。
この計画案を提出したところ、7千万円の補助金が交付されることになった。これにより新市立病院では小樽・北後志から札幌へ搬送している救急患者(600 件/年)の大半を受け入れ、とりわけ脳卒中、急性心筋梗塞については基本的に全件受け入れるとともに両疾患の圏域内の入院自給率の向上を目指す。
4.新市立病院開院までの活動
1)広報活動促進:当病院の活動の現状および新市立病院建設の進展状況の広報を院内ラン、広報誌、ホームページ、市民公開講座などの会合、パンフレットの郵送等を用いて積極的に行う。この活動が市民に認められ平成22年度の市立病院新築資金基金には6件で2百万円の寄付が寄せられた。なおこれまでの総額は6千4百万円であり、さらに増額するよう努める。この資金は新病院の快適な環境整備に使用する。
平成23年6月末には医師派遣先の大学教室に対して、基本設計の概要と医師派遣要望の書面を配送した。さらに7月中旬には市長と共に東京および関西小樽会に出席し新病院の状況の説明および協力、支援をお願いした。医師確保の一環として初期臨床研修医の勧誘に力を入れる。現在5名が熱心に研修に励んでいる。
この4月に平成23年度の臨床研修病院合同プレゼンテーションが開催され60施設が参加した。当院での研修に関心を示し、ブースを訪れたものが10名おり、すでに3名が当病院を訪問した。
2)ID- LINKの設置と地域医療連携の充実:北海道地域ネットワーク協議会は国のICTふるさと元気事業交付金の1千2百万円を小樽病院に導入して、地域医療連携システムID-LINKを設置し、平成23年4月より運用を開始した。ID-LINKは小樽病院に公開用サーバを設置し、インターネット経由で地域の病院、医院のパソコンから接続することにより電子カルテ・オーダリングシステムの診療情報を病院、医院と共有するシステムである。現在3病院、医院が登録しているがもっと多く参加してもらえるよう対策を考える。
3)プチ健診の活動:平成21年8月に自動販売機による簡便なプチ健診を開始して以来好評であり、一年間で約1,000名の利用があった。受診者のうち異常値を示したのは154名で、そのうち52名が病院を受診した。当院に受診の既往のある25名は全員当院を受診したが受診の既往のない27名のうち4名が当院に、23名と8割が近隣の病院、医院を受診した。プチ健診システムが市内への医療機関との地域医療連携に貢献していることを示す。
4)小樽・後志緩和医療研究会の発足:当院ではがん診療に力を入れておりキャンサーボードの開催、がん登録の強化、がんの認定看護師の増加、緩和のケアチームの活動など徐々に活発化している。5月末に小樽・後志緩和医療研究会の発起人会を市内の7名の先生方で開催し、事務局を小樽病院麻酔科緩和ケア外来に置くことにした。7月27日に第1回小樽・後志緩和医療研究会を開催した。本研究会へ医師会員多数の参加を期待する。
5)院内研究会の発足と充実:質の高い医療を行うには医師だけでなく看護師はじめコメディカルの質の向上を図る必要がある。それには学会、研究会発表さらに論文作成に努めることが大切である。その指針としてホームページの病院局長メッセージに「業績の意義と提示」を掲載してある。平成23年2月末に第1回小樽市立病院合同発表会を開催した。診療科、看護部、薬局、地域医療連携室、検査科、リハビリテーション科、放射線科と広い分野から合計12演題の応募があった。今回は小樽病院の放射線科、検査科と医療センターのリハビリテーション科からの3演題が優秀発表として選ばれ、この10月に開催される平成23年度全国自治会病院学会で発表する。
5.これからの医療の動向
これからの医療は役割分担が求められる。市立函館病院はIT(情報技術)を用いた回復期病院との地域医療連携を進めることで患者の転院にかかる日数もより短縮し、経営面でも大きな効果を上げている。一方逆紹介を受ける回復期病院側も急性期病院から患者の提供が受けられるので経営的にも安定する。
しかもITを用いての情報も共有でき医療の質の向上に役立つなどメリットもある。2025年に高齢社会がピークに達することを考慮して、医療・介護提供体制では2次医療圏に全科の急性期入院医療を提供できる中核病院が必要である。
また2035年以降に人口減少により病院、医院存続の危機を迎えるという悲観的な発表等がある。これからの激動する医療状況を適切に対応するには冷静にかつ前向きで建設的な態度で臨むことが求められる。