新病院建設実現に向けての覚悟と行動

はじめに

 平成23年9月27日の拡大戦略会議において「新病院建設に向けて」の局長基調講演を行った。この講演内容が両病院の職員にとってもこれからの市立病院の行く末を知るうえに重要であると考え、論文にすることにした。

 

1.市立病院統合・新築実現の覚悟と行動

a.着任時(平成21年4月1日)に記者会見で強調したこと

  1. 1つは市立病院の赤字の解消を第1の目的に来たのではない。小樽市の市民、患者に良い、安心する医療を提供し、信頼をえることで病院経営を改善していく。
  2. もう1つは早急の目標として2つの市立病院を統合・新築し、 新ビジョンを掲げて医師、看護師の確保に取り掛かる。

b.着任後に、小樽市の医療状況、問題点が分かったこと

  1. 両病院の職員の意識に差があり、これを変革して1つにまとめる必要がある。
  2. 医師会、議員、マスコミ、市民の中に市の政策、小樽病院のあり方に根強い不信、不満感があった。それを解決する調整役が必要である。
  3. 小樽は老舗の街であり、お仲間意識が強い。文学の街として批判、批評を好む気風がある。かつての外に向って新風を巻き起こした伝統が薄れている。
  4. 両市立病院の職員は明るく、素直であるが輝きに欠けている。しかし、潜在能力があるのでよく磨けば輝き、大いに活躍、成長が期待できる。
  5. 市立病院の改革、発展のためには外からの強いリーダーシップが必要である。私は病院事業管理者・病院局長としてその役割を果す責任がある。

c.小樽市病院事業管理者としての心構え

  1. 小樽市民ならびに周辺地域の人々に信頼される医療を提供するために努力する。そのためには、市立小樽病院と小樽市立医療センターの統合・新築の重要性が急務であることをよく認識し、行動する。
  2. 市長をはじめ市部局、市議会、両病院、医師会、マスコミなど非常に多くの人たちの理解と協力をえるよう努める。そこで成果を上げることは、一朝一夕ではできず時間と忍耐、努力が不可欠なので「石の上にも三年」の心構えで対応する。
  3. 病院職員は、ややもすれば保守的な考えを持ち、行動し易い。そこで外部からの評価に耳を傾け、かつ外部に出かけて自分達の実力と実績を客観的に見つめ直すことが大切である。そのうえで如何にしたら解決できるかを考えて行動するように指導する。
  4. 病院事業管理者に就任するにあたり、周辺から「火中の栗を拾うことになる」と忠告された。しかし両病院統合・新築という栗は大事な事業なので、果敢に挑戦する。それには火中から火傷を恐れず栗を拾いだす必死の覚悟が必要である。

 

2.新市立病院建設実現に向けてのプロセス

a.病院建設地問題

  1. 市長への進言:統合・新築に当っての大きな問題は病院建設地であった。私は病院建設地を直接視察し、また多くの医療関係者の意見を聞き検討した。その結果、現小樽病院と隣接する量徳小学校を合せた敷地が最適と判断し、これまでの築港地区からの変更を市長に進言した。これを市の正式な方針として基本設計予算案を作成し、平成22年6月の議会に提出し、承認された。
  2. 私の見解:病院問題についてPTA・地域住民との懇談会(平成21年9月4日)で以下の2点を強調した。 1.小樽市は将来、国際観光都市、定住自立圏構想で北後志5町村の中心都市となるので、それに相応しい医療環境の確立が必要である。2.病院建設地は、医療の効率性、建物の利便性、土地の有効利用、病院を利用する患者、家族、そこで働く医療者の快適性、満足度、そして、小樽市の将来展望を総合的に判断して決定されることが、適切と考える。

b.新市立病院建設実現の追い風

   平成23年2月に基本設計業務が完了し、3月の本議会で実施設計の予算案が通過した。これで新病院建設の見通しがつき、関係者一同は安堵した。

私はこれまでの期間に新市立病院建設実現の追い風を確信していた。その理由は平成21年から平成23年にかけて以下の5つの好条件が幸運にも揃ったからである。

  1. 診療報酬が改定される。経営面の改善が図れる。
  2. 定住自立圏構想で市立病院が小樽、北後志の医療の中核になる。病院の存在意義が高まる。
  3. 小樽市財政状況の赤字解消の見通しが明らかになる。病院にとって力強い支えとなる。
  4. 小樽市には病院事業債の他に過疎債が適用となる。特に新市立病院には大変有利な条件で資金を導入出来る。建物は30年返済で返済の元利金の約46%を国が地方交付税として支援してくれる。これが最も大きな追い風である。
  5. 各方面から補助金、寄付金による支援を受ける。その内容は耐震化8億円、地域再生1億4千6百万円(ハイブリッド治療7千万円、リニアック7千6百万円)、IT基金1千2百万円、新病院寄付6千4百万円であり、職員のやる気が高まる。

 

3.新市立病院のビジョン

a.基本方針:病床数を削減しコンパクトで高機能な基幹病院にする。その内容は病床数388床のうち、一般302床、精神80床、結核4床、感染2床である。

b.医療方針:

  1. 診療の3つの柱は(1)がん診療、(2)脳・神経疾患診療、(3)心・血管疾患診療である。
  2. 2つの特性は1.他の医療機関で担うことのできない疾患の診療、2.地域医療連携センター機能を有する。
  3. 自治体病院である新市立病院は質的水準の高い医療を行うための施設、設備を有する総合病院として小樽・後志の地域医療の中心的役割を果すことである。

c.病床数の決定に当っての見解

  1. 決定した要因は(1)市立病院改革プラン再編・ネットワーク化協議会での結果、(2)両病院の各診療科の医師達との面談、派遣先の大学教室の意向、(3)3 名の病院経営の専門家の意見であった。これらを参考にして現在の両市立病院のベッド総数445床より57床少ない388床に決定した。
  2. 新市立病院と他の自治体病院との比較

(a)同じ機能を有する条件:(1)災害拠点病院である。(2)一般病床が300床以上である。(3)脳外科、心臓・血管外科手術が行える (4)精神科病床をもつことである。

(b)これらの条件を満たす市立病院:人口の多い順に札幌市立(818床)、函館市立(853床)、釧路市立(647床)、小樽市立(388床) 室蘭市立(609床)、砂川市立(521床)、名寄市立(469床)の7箇所である。

(c)新市立病院の特徴:病床数が他の市立病院より80床以上少ない中規模病院であるが内部はコンパクトで機能的であり、かつゆとりのある構造をしている。

 

4.建設費と財源に関わる諸問題の対応と対策

a.新病院の起債手続き

起債協議のための前提条件に目処がついたことから、平成23年2月中旬に新市立病院の起債協議を開始した。

  1. 前提4条件との対応:(1)平成22年度中の不良債務の解消(達成済み)、(2)平成25年度までの地方財政法上の資金不足の解消(解消計画策定済み)、 (3)持ち家にかかる住宅手当の廃止(条例改正済み)、(4)病院事業における医療職給料表(2)(3)の導入(平成23年4月1日導入済み)である。
  2. 起債許可のスケジュール:(1)平成23年4月25日北海道へ起債計画書提出、(2)5月27日北海道が国(総務省)へ関係書類提出、(3)9月12日国、北海道から記載許可内示通告、(4)10月11日起債正式許可、(5)平成24年3月末起債借入となる。

b.基本設計における概算事業費

  1. 事業費内訳:(1)建設工事89億4600万円、(2)付帯工事3億3900万円、(3)医療器機等の整備、解体工事など47億700万円、合計139億9200万円である。事業費は実施設計や発注段階で減額に努めるのでこの合計より低額になる。
  2. 負担内訳:(1)国・北海道、交付税・補助金69億100万円(49.3%)、(2)市負担分20億700万円(14.4%)、(3)病院事業負担分50億 8400万円(36.3%)、合計139億9200万円である。病院建設には、交付税措置のある起債(過疎債、病院事業費)を借り入れる。そのため実質的な負担は上記のようになり市と病院の負担分は約71億円(50.7%)となる。

c.起債償還と年度別負担額

  1. 起債は医療機器5〜12年、建設費30年で償還(返済)する。
  2. 利息も含めた病院の負担額は、各年2億〜4億円程度となる。
  3. 一方統合による効率化で、光熱水費や委託料、施設修繕費などの経費削減3億円、病棟の集約や事務部門の統合による給与費減3億円などで賄う計画である。

d.新病院開院までの工事日程

  1. 平成23年12月の本議会に工事費予算案提出、
  2. 平成24年1月〜3月入札作業、
  3. 3月下旬に工事着工する。
  4. 新病院の本体工事には2年間を要するため、平成26年3月に竣工し、夏頃に開院の運びとなる。

 

5.開院までになすべきこと

a.新病院の建設は確実なものとなった事実を直視して対応。

ハード面は着実に整備されるのでこれからはソフト面、すなわち人事、システムの統合、整備の重要性を認識してしっかり行動する。

b.外部評価委員会の指摘と提言に対応。

  1. その内容は(1)現病院経営の改善を図る。(2)高い人件費比率の是正をする。いずれも小樽病院が指摘された。
  2. その対策として、(1)H24の採用要望についてヒアリングを行う。(2)改革プランを見直す。(3)資金収支計画を含めて見直しをする。

c.市議会の議論からの市民要望に対応。

  1. その内容は(1)救急体制の充実、(2)診療体制の維持であった。
  2. その対策として、市立病院が二次救急患者の診療をしっかり行える体制にする。

d.医師確保(招聘)に向けて取り組む。

 これまで大学医局はじめ多くの医療関係者が新病院建設実現を心配していた。今度正式に決まったので、積極的に医師派遣を交渉するとともにホームページや多くの情報機関を活用しながら医師確保に努める。

 

6.現時点の問題を解決するため具体的に行動すべきこと

  平成23年度は、両市立病院の統合・新築を進めていくに当たっての正念場である。その具体的対策は以下の通りである。

a.両病院あわせての経常収支均衡を目指す。

 一般会計からの追加繰入を受けないよう最大限の努力をする。

  1. 収入増のため、(1)医師増員による入・外収益の増、(2)診療報酬加算など様々な増収対策、(3)業務分担の見直し(医師の負担軽減)を図る。
  2. 経費節減のため、(1)適正な人員配置(業務見直し)、(2)診療材料や委託料の節減対策、(3)業務手順や手法の見直しによる節減効果を図る。

b.医師が診療に専念できる支援体制を整える。

  1. 固定医が少ない中で、両病院の各診療科をはじめ市内の病院、診療所との連携を密にする。地域医療支援センターを目指す。
  2. 看護、放射線、検査、事務においてそれぞれの仕事を見直す。
  3. 病院内のチームワークを重要視する。

c.適正な情報公開、積極的な広報活動を行う。

  1. 両病院の現状および将来について、職員はもとより、市当局、議会、医師会、マスコミ、市民に理解してもらうための努力をする。
  2. HP、広報誌、市民公開講座に加え、病院誌、年報作成、HP更新、連携室の活用、ID-Linkの導入など積極的に活動する。

d.両病院の診療、人事、業務、体制の統合を推進する。両病院合同委員会(医療材料購入改善(委)、DPC(委)、機能評価(委)、広報(委))の活発化を図る。

 

7.局長としての提言

a.新病院建設の意義を理解すること

  1. 新病院建設の意味は病院の建物を造り、組織を創ることである。
  2. 建物はこれから工事が行なわれ、順調に進んでいくと思うが、その中で働く、機能する組織のシステム、人事が同様に円滑に進んでいく必要がある。
  3. すなわち建物が出来てから組織体制を創るのでなく同時に進行させていくことが重要である。
  4. 従って来年度から人事、各種委員会の体制も当然開院を目指して整えていく。最後の1年は新病院と同じ体制で行くことを考える。
  5. そうすることで新病院での医療の質、病院経営を円滑に高めていくことができる。

b.統合される各部門、職場のリーダーが知っておくべきこと

  1. 拡大戦略会議のメンバーの皆さんは病院のスタッフでなく、リーダー的存在であることをよく認識して行動することである。
  2. リーダーは自分・個人、自分の部門のこと以上に病院全体のことを考えて行動することが求められる。
  3. また単に年功、実力、実績だけでなく、むしろ人間性(その人を尊敬、信頼しうるか)がその人の評価に大きな影響を与える。
  4. 評価されない人の12の特徴は一貫性の欠如、役割の無理解、自己中心、倣慢、頑固、理想至上主義、偏見、変化の抵抗、仲良しクラブ、任せない、問題の誇張、無用なユーモアをもっていることである。これらの要因はすべての人がもっているがそれを出来るだけ少なくするよう努め、明るく、素直に、前向きに活動する。
  5. また人の将来は普段の行動や何げない振る舞い、相手に与えた印象といった曖昧なものによって決められることがある。
  6. 特に今回両病院が1つに統合することをよく考慮して各部門、職場のリーダーを慎重に決めていくことが重要である。
  7. 組織が成長するには天の時、地の利、人の和の3つがすべて揃うこと、人が成長するには忍ぶ心、励む心、静かなる心をもって行動することが大切である。

 

おわりに

  小樽市立病院の統合・新築は平成11年に山田前市長が就任以来10年以上にわたる市の大事業であったが、幾多の難問題の壁に当り、実現できなかった。平成 20年に新設された病院事業管理者制度に私が病院局長として就任して以来、山田、中松両市長はじめ市当局および病院局は今回が新病院実現の最後のチャンスであると捉えて、必死に活動を行ってきた。その甲斐があり平成26年夏に念願の新病院が開院する。

  しかし病院のハード、ソフト両面が完成し、発展していくためには職員皆さんの理解とやる気、そして一致団結して力を尽す覚悟と行動が強く求められる。皆さんの努力と苦労により実現する新病院は小樽のシンボル的建物、施設となり、市民に安心、安全、信頼、幸福をもたらし、小樽の発展に貢献することが大いに期待できる。 

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