新市立病院建設の目的と意義
私は平成21年の4月から新設の小樽市病院局に局長として就任し、今日まで2年が経とうとしております。その就任時に強調した私の基本理念は、まず小樽の医療が市民及び周辺地域住民から信頼を得てより良い、質の高い診療を提供でき、安心、満足を与える診療体制に作り上げることであります。この基本理念は現在も将来も一貫して実行していくつもりでおります。
新市立病院における医療方針は脳神経疾患、心臓血管疾患の手術を含めた診療、がん診療連携拠点病院を目差したがん診療、そして他の医療機関では入院治療出来ない各科専門診療、そして道保健福祉部、北海道医師会からも要望されている小樽・後志地区の地域医療の中核病院としての役割を果たすことであります。
ここで、まず小樽市立病院の過去から現在までの経緯を振り返ることにします。市立病院は大正9年頃から市議会議員や一般市民からも公立病院のない市の体面並びに保健衛生上からも面白からずとの議が起り、明治45年開設の民間の私立小樽病院の買収を進め、昭和3年に市立小樽病院として発足しました。市立病院を持つことは市および市民にとって念願であり、誇りになるわけであります。
その後小樽病院を除く市内にある4つの市立の病院、診療所を昭和49年に統合新築して市立小樽第二病院を開設しました。その後両病院はそれぞれ独自の経営理念・体制により、運営を行ってきましたが、医療状況の変動や長引く景気低迷などに伴い両病院の経営および市の財政状況の悪化がみられるようになりました。
そこで山田市長は平成11年度より両病院の統合新築の方針を決めその実現に向けて取り組んできましたが、幾多の困難な状況に遭遇してきたわけであります。 しかし、山田市長はじめ市当局および私ども病院局は今回が小樽市立病院を1つに統合新築する最後のチャンスであるととらえ真剣、慎重に取り組んできたところであります。
さて市立小樽病院および医療センターの建物は道内の市立病院の中で最も古く、また駐車場を含め敷地が非常に狭い施設であり、施設や設備の老朽化と不便さが進んでおります。このままでは、医師の確保も出来ず、病院を続けていくことすら難しい状況であり、その対応が急務なのであります。
私は平成21年の4月に就任した際に早速、両病院の医療および経営状況の把握、市内7箇所だけでなく後志地区5箇所の病院、診療所の院長そして医師派遣先の札幌医大7科、北大8科の各診療科の教授達との面談を積極的に行いました。その結果、医師を招致するにも両病院の統合新築が必須であると判断致しました。そして建築場所は高齢化が進んでいるなか、交通の利便性のよいそして他病院との医療連携が容易であり、また患者、市民から要望の強い地域にある現小樽病院と量徳小学校を合わせた敷地が最適であると判断し、市長に病院敷地変更の進言をした次第であります。この案を市の正式な方針として議会に報告し、平成22年の6月末に当該地での建設を前提とした基本設計予算が議会を通過しました。
この基本設計作成には病院の規模を明確にする必要がありました。その件については私が委員長を務め、両市立病院、3公的病院の院長、医師会長、副市長、保健所長の9名(このうち6名が医師会の理事、監事の執行部)の委員からなる、「市立病院改革プラン再編・ネットワーク化協議会」において話し合いを行ないました。その結果、両市立病院を400床程度の病院として再編統合することとし、新市立病院、3公的病院がそれぞれの特徴を出して医療連携を深め共存共栄を図るという方向性が決められました。
この決定事項を尊重すること、それから両病院の各診療科の医師達との面談、派遣先の大学教室の意向そして病院経営の専門家の意見を参考にして、新市立病院の病床数を現在の両市立病院のベッド総数445床より57床少ない388床に決定しました。このことからも多くの医療関係者の意見、要望を聞き、それを検討しながら決定したことがおわかりと思います。その病床数の内訳は一般病床302床、精神科80 床、結核4床、感染症2床であり、一般病床302の内30床は市内で開業している先生が自由に利用できるオープン病床としました。このことからも市立病院のことだけを考えた施設でないことがおわかりと思います。
全国の地方中核病院となっている自治体病院の40%が一般病床を300床以上有しております。また、脳神経外科、心臓血管外科の手術が行え、精神病床をもつ道内の市立病院は6施設あり、このうち3施設が小樽より人口の少ない室蘭、砂川、名寄の各市にあります。これら6病院はいずれも480床以上の病床を有しており、新市立病院はこれらより100床も少ない病床を有する病院であります。
しかし建物の大きさはコンパクトでも機能的で質の高い医療ができ、かつ患者だけではなくそこで働く医療従事者にとっても安全、満足、やる気のもてる病院になるようしっかり検討を進めております。検討事項の1つは大地震災害時の対策であり、建物を免震構造にすることにします。
私は新病院建設実現の追い風を確信したのは平成22年の2月から3月にかけて5つの必要条件が揃ったからであります。
その条件は1つ目、診療報酬改定により経営面で改善が図れる。実際には診療収益が前年度より約3%の増となる見込みです。
2つ目、定住自立圏構想で小樽が北後志の中心都市となり、市立病院が医療の中核を果すことになる。実際に後志の各地区から救急医療体制充実のためへリポート設置の要望がすでにあります。
3つ目、小樽市財政状況の赤字解消の見通しが明らかになる。そのため大きな負債を抱え赤字経営である市立病院にとって力強い支援をえることができる。
4つ目、21年度のネットワーク(ICT)ふるさと元気事業交付金が当り、その導入により、小樽病院にサーバーをこの3月に設置し、4月から実施する。そのことで、両市立病院と市内の病院、診療所とのネットワーク化による連携が図れる。
5つ目の条件が最も大きな追い風になります。それは小樽市には過疎債が適用となることです。特に病院には大変有利な条件で導入できます。それは病院建設および医療機器購入の費用を100とするとその返済時には46.25が地方交付税として国から交付され、市民の税金による一般会計からは13.75、そして病院の収入である病院事業会計が40の割合で負担することになります。
なお建物に関する一般会計と病院事業会計の負債は30年かけて返済していくことになります。さらに大変喜ばしいことはこの1月に後志の災害拠点病院である市立病院の耐震化工事費用に約8億円の補助金が交付されることになり新築工事を進めるうえに大きな原動力になります。これら交付金を合わせると約70億円近くが国から支払われる見込みであります。
このような交付税など財政措置の優遇は小樽市立病院が公立の自治体病院だからこそ受けられる恩恵であり、この多額の国からの資金を小樽市および周辺地域の医療に大いに活用すべきであり、そのことが小樽市の経済の充実、発展にもつながるものと考えます。
さてここでもう一度両病院の現状と要望を述べさせて頂きます。
現在の両病院においては建物のハード面、医療従事者のやる気などのソフト面の両面において限界にきております。このまま計画が円滑に進んでも新病院が開院されるまで3年半掛ります。それまで施設の整備と安全性に細心の注意を払っていかなければなりません。その修繕、整備にはかなりの額が出費されます。また医療従事者特に医師には何とか、納得、我慢そして頑張るように導いていくこと、そして派遣先の大学には誠意をもって説明していくことしかありません。従ってそれ以上の時間の遅れは状況を一層悪化させ最悪な事態を招く恐れが確実にあります。
新病院開設までの計画について、財政面では平成23年3月の本会議で実施設計の予算案の通過、5月上旬道庁に起債計画書提出、10月末に許可申請、平成24年3月末に実際に起債借入する。工事関係面では平成 23年12月議会に工事費予算案提案、平成24年3月上旬工事入札、下旬に工事着工、平成26年3月に本体工事竣工する。そして夏頃に急性期医療中心のさらに予防医療も担う施設として開院の運びとなります。
私はこの計画が円滑かつ確実に実行されることが極めて重要であり、その実現のために強い覚悟で臨むことに致します。私は40年の長きにわたり医学、医療界に携ってきた者の見解として新市立病院が時代および市民の要望に応えて以下のようになることを確信しております。
1つ目は、新市立病院は市民の生命を24時間、365日守る責務をもつ市にとって将来必須な施設、建物になる。
2つ目は他の医療機関で満たし得ない質的水準の医療を行うための施設、設備を有する総合病院として小樽、後志の地域医療の中心的役割を果たすことになる。そして3つ目は景観がすばらしいことから患者、家族に安らぐ、満足する環境を提供でき、さらに市民にも活用できる施設として、小樽市のシンボル的存在となる。
これから病院局は新市立病院の状況と役割について市民に正しく理解してもらうために広報活動を積極的に行っていくつもりであります。
市民の皆様方には新市立病院の状況をよく理解して頂きますことをお願いする次第であります。