新市立病院建設の特徴と見解
はじめに
平成23年10月11日に新病院建設の起債の正式許可が北海道から通知された。平成23年12月の定例市議会に工事費予算案を提出し、議決を受ける。平成24年1月〜3月に入札等の手続きが行なわれ、3月下旬に工事に着工する。新病院の本体工事には約2年間を要するため、平成26年3月に竣工し、夏頃に開院の運びとなる。
1.病院の規模の特徴
- 両病院合わせて445床から388床と病床数を削減し、コンパクトで高機能な基幹病院になることを基本方針とした。
- 新市立病院と同じ機能を有する施設の条件は(1)災害拠点病院である。(2)一般病床が300床以上である。(3)脳外科、心臓・血管外科手術が行える。(4)精神科病床をもつことである。
- これらの条件を満たす道内の市立病院は7箇所ある。札幌、函館、釧路、室蘭、そして砂川市立は500床以上の大規模病院である。小樽の新市立病院は名寄市立より80床以上少なく、300床以上の中規模病院である。
- 量徳小学校跡地に建設することになり、敷地面積が限定されるなど敷地の条件を考慮して地下1階、地上7階とした。また経済性を図るため正方形に近い形状の建物とし、建築面積は7,325m2、延床面積は29,850m2の広さとした。ちなみに同等の病床数をもつ他病院との比較では滝川市立318床 24,080m2、苫小牧市立385床28,009m2である。新市立病院の1床あたりの面積は76.9m2とこれらの病院と比較するとやや広く、主に病室にゆとりをもたせたものである。
- 患者用駐車場に関しては現在小樽病院36台、医療センター60台であり、道内市立病院のうちで最も少なく、外来患者の不満の第1位になっている。新市立病院では小樽病院の跡地7,636m2に他病院の実態調査、外来患者アンケート調査から約250台が収容できる駐車場を配置する。これにより患者の利便性がよくなり外来、入院患者の増が見込まれる。ちなみに同等の規模の病院との比較では江別市立305台、苫小牧市立270台、滝川市立189台である。
2.新病院の設計の特徴
基本設計作成に当り工学院大学建築学部、筧淳夫教授から病院計画のコンサルテーションを受けこれも参考にしながら以下4つの特徴を出すことにした。
a.一つ目、「利用しやすく快適な病院」
- 外来診療部門を1階に集約したほか、放射線部門や検査部門など多くの患者さんが利用する部門を1階に配置し利便性に配慮する。
- 全ての利用者に優しい病院づくりを目指し、施設内における段差の解消や分かりやすい案内表示などをする。
- 病棟においては、快適な療養環境を確保するため、病室は柱と柱の間を標準の6メートル以上の6.2メートルにすることでゆとりのある広さとし、個室・4床室ともに洗面、トイレを設置する。
b.二つ目、「安全で安心な病院」
- 後志医療圏の災害拠点病院に指定されているので、大地震にも強い免震構造を採用するなど災害時における病院機能の維持と安全性を確保する。
- 救急医療への迅速な対応を可能とするため屋上にヘリポートを設置する。
c.三つ目、「環境に配慮した病院」
- 景観と街並みに調和した外観と院内からの海や山などの眺望を確保する。
- 建物の高層部を低層部より内側にすることで、近隣への圧迫感を低減する。
- LED照明、外断熱、断熱サッシの採用や太陽光発電、自然採光、地中熱など自然エネルギーの有効利用などにより省エネルギーへ配慮をする。
d.四つ目、「医療環境の変化に対応した病院」
- 将来展開への可能性を考えて、外部の増築や内部拡張に対応したスペースを確保する。
- 間仕切り壁は容易に変更が可能な工法を採用する。
3.病院の診療面の代表的特徴
a.外来診療:
- 救急部門は業務エレベーターで2階手術室、屋上へリポートとの縦動線を確保する。
- 病理・検体検査部門は生理検査と中央処置と隣接、2階手術室と縦動線で連携する。
- 放射線部門の1階のMRI2台、CT2台、地下のリニアック(放射線治療)とRI(核医学検査)を最大限活用する。
b.入院診療:
- 2階の手術エリアには一般手術室6室の他、血管造影室2室があり、その1つはカテーテル手術に対応するハイブリッド手術室を配置する。
- ICUはベッド6床あり手術エリアに隣接させ、連携を確保する。
- 7階にオープン病床、健診室を配置し、また患者、来院者そして職員のためのアメニティスペースを確保する。
- 各病棟の2つのスタッフステーションは共有通路で連携を図り、それに面して特殊浴室や器材庫等の諸室を集約する。
4. 公共建物(新市立病院)と民間建物(民間病院)に関する建設費の見解
公共工事と民間工事の建設費の実態についてよく知ることが大切である。
a.公共施設の建設にあたっては、民間建物に比べて強く求められること:
- 安全性:公共建物は災害等の際に拠点(対策本部、拠点病院、避難所など)となる。
- 耐久性:公共建物は長期間にわたって使用する。特に病院は、24時間365日使い続ける施設であり、建物完成後、短期間での改修・補修は避けなければならず、耐久性を考慮した工法、内外装材の採用が必要となる。
- バリアフリー:公共建物は不特定の人が利用するためすべての利用者に安心、安全な施設であることが必要である。
- 省エネルギー環境負荷の軽減:公共施設は長期間使用するためランニングコストの低減や環境への配慮をする。
b.建設費の差:
- 公共施設(新市立病院)を建設する際は、以上の4項目に十分配慮する必要があるため建設コストは割高となる。
- 一方、民間施設(民間病院)の場合は、これらの項目に特に制約がないことからコストアップにつながるものは採用しない。
- このため、結果的に建設コストには差が生じる。
c.発注や入札制度の違い:
- 建設工事費の算定:(1)公共工事では、実施設計の図面や積算書を基に算定した金額を適正価格とし、この価格を工事発注の際の「予定価格」の基礎とする。 (2)一方、民間工事では、図面や積算書を基に金額を算定した金額と「予算額」を比較し、予算を超過した額は予算額を優先し減額する。(3)このため、公共工事の「適正価格」と民間工事の「予算額」では差が生じることとなる。
- 入札の制度:(1)公共工事では、不当なダンピンを防止する目的で、「低入札価格調査制度」などを導入し事後公表している。(2)一方、民間工事の入札では、このような制度の制約がないことから最低額で応札した者が落札者となる。
- 受注者の決定:(1)公共工事は、発注する工事の「適正価格」を算定し、「適正価格の範囲内」での応札者を受注者とする。(2)一方民間工事では、価格の算定方法や入札方法に制約が無いため経済性を重視した方法で金額や受注者を決定する。(3)このため、公共工事と民間工事では受注額で差がでる。
5.病院建築に関する最近の見解
a.病院の機能と建設単位との相関関係:
このテーマについて国立大学病院データベースセンターの視察プロジェクトチームとの意見交換会が小樽病院で開催された。
b.社会資本としての医療施設・病院建築の質とコスト:
このテーマについて参加者の一人で筧教授と交流の深い千葉大学中山茂樹教授の論文があり、その要旨は以下の通りである。
- かつて聖域なき構造改革をかかげた政策が、経済優先の論理を医療まで広げたのは適切でない。
- 医療制度を圧迫するものとして病院建築が槍玉に上げられた。
- 医療サービスの質を決定するものは、その病院が提供する医療の内容であり能力である。それを担保するものの一つが病院建築の性能、質である。
- その病院が提供する医療の内容は建築費と強い相関がある。(1)高度の医療や、災害拠点の病院は当然建築費が高くなる。(2)低い単価でできた病院は結局それに相応しいレベルの医療しかできない。
- コストとプライスは異なる。コストは建築の内容あるいは質を示すものであり、設計が完了した際の設計見積金額である。プライスは建設をする際に実際に支払った費用、すなわち施工者に支払う契約金額であり、その時の社会情勢に影響される。最近、色々な工夫を行い低い単価でできた病院はローコストではなく、ロープライス病院である。
- ゆとりと贅沢(豪華)は異なる。ゆとりのある病院は機能的で質の高い医療を行える。
この内容は病院建設事業推進に参考になる。
おわりに
新市立病院は小樽・後志地域医療を統括する中心的役割を果す施設である。新病院がその良い特徴を十分に発揮し、進展していくことである。そうすることで新市立病院は小樽のシンボル的建物、施設となり、市民に安心、安全、信頼、幸福をもたらし、小樽の発展に大いに貢献することが期待できる。