仕事の意義とあり方

 人は仕事を通して人生を経験し、成長する。人は仕事の意義とあり方についての情報、知識を、自らの会話、見聞、読書、経験などを活用することで学べる。

仕事の意義:丹羽宇一郎氏は「人間の仕事とは、人が人のためにする仕事、人の成長を育むようにする仕事をいう。仕事の向こうに常に人の幸福を見据えていることが本当の仕事である」と述べた。ある新聞記事に「人は仕事を通して必ず成長します。まず働き続けて下さい。謙虚と情熱に裏付けられた仕事への姿勢は決してあなたを裏切りません。仕事は誰かが必ず見ています」と掲載された。

仕事と人事:ある企業の社長が、地方に重要な支店を設立するため、3名の同期で優秀な課長と面談をした。その状況について社長は「Aは同居している高齢の両親の世話が大変だと悲観的な態度であった。Bは今行っているプロジェクトの達成が自分の使命だと強調した。Cは自分にとって貴重な経験になると前向きな姿勢で応じた。彼らの3年後の姿はAは積極的な活動ができず転属となった。Bは自己中心的な態度のためチームをまとめられずプロジェクトが中断になった。Cはリーダーシップを発揮し、業績を上げるとともに、地方の人達との交流を深めて人脈を築いた。結局Cを本部長として本社に戻した」と語った。性格も運も実力のうちである。松下幸之助氏は「採用試験で重要視したのは、その人が明るく、愛敬があること、運との巡り会わせの良いことであった。そのような人は職場の雰囲気を生き生きとしてくれること、会社に幸運をもたらしてくれるからである」と語った。

仕事のあり方:松下氏は「自分は病弱であったが、毎日必死に仕事をした。そのお蔭で会社が発展した。会社はお客の満足のため、社会、国に貢献するために仕事を優先させることで社会から信用を得た。」と述べた。

研究者の仕事:ノーベル化学賞受賞者の吉野彰氏は「研究者に必要なのは柔軟性と執着心そして周囲の人達の支援、協力である。リチウムイオン電池の新開発の達成を誇りに思う」と語った。著名な免疫学者の岸本忠三氏は「ノーベル賞級の研究をしても業績が教科書に1行残るだけである。しかし人を育てればその人が次の人を育てて、人材が拡大再生産されていく。私にはたくさんの優秀な弟子が全国各地に育ってくれて、彼らのもとで次の世代が上手に育っていることが自慢できる実績である」と述べた。2人の仕事の内容が違っても、仕事の価値には差がない。

教授の仕事:私は札幌医大麻酔科学教室の教授として22年間にわたり仕事に従事した。その間共に働き、指導した教室員の中から、現在までに14名が学内外の教授に就任した。私は彼らに教授としての心構えを伝えた。それは「1番よく働くこと、人に謙虚で好かれる、感謝して信頼される、貢献して尊敬されること、麻酔科医として知識、技術、人格を磨き一流を目指すこと」である。当教室出身の教授達が仕事のできる麻酔科医として高く評価されていることを嬉しく思う。瀬戸内寂聴氏は「仕事のできる人は、仕事が成功したのは自分だけの手柄ではなく、部下や同僚、上司などの協力があってのことだという、謙虚さと感謝の気持ちを持ち合わせています。頭の良さだけでは世間を渡っていけない」と語った。

プロの仕事:プロ社会は実力主義で生存競争が厳しく、辛い。しかしそれを乗り越えることで成長し、周囲、社会から高く評価される。

 大相撲の世界では、ある親方が「辛抱、努力、根気の心構えをもって地道に、真剣に、激しく稽古に励まなければ幕内力士になれない」と語った。三役力士と幕内力士の差は「土俵での立ち合いの勢いとスピード、取り組み中の集中力、そして最後の詰めの厳しさと粘り」にある。稀勢の里は大関のとき、横綱の日馬富士から「相撲のことを24時間真剣に考えて行動しなければ横綱になれない」と忠告された。

ジャニー喜多川氏の言動:彼は注意をしている若者からこんなに頑張っているのにと言い返された時、激怒した。「お客はプロの頑張り、苦しんだものに感動して、そのプロの芸を高く評価する。一流のプロが頑張り苦しんで成し遂げたものを客が喜んでいる姿に、達成感と喜びと楽しみを感ずるものだ。自分で努力、苦労、頑張らないで言い訳、自分の限界をつくるのはプロになれない」と厳しく叱責した。

病院局長の仕事:こうしたことは医学、医療の世界でも当てはまり、私が仕事をしていく上でも大いに参考になり、重要な活動テーマの語句に活用した。

 その1は「オイアクマない精神」を実践する。この精神の基本は円滑、円満な人間関係で組織が運営され、仕事の成果を上げるには主観的な考えや行動をとるのでなく、状況を冷静かつ大局的な見地から客観的に考え、行動する。具体的には「オ、怒らないで叱る。イ、威張らないで相手の立場で考える。ア、焦らないで原点に戻って考え直す。ク、腐らないで視点を変えて行動する。マ、負けないで頑張る。」ことである。

 その2は現場主義を重要視する。重要な課題は現場にある。そこから情報がスピーディーに正確に伝わる、できるだけ上層部が現場に直接行き、実情を正確に把握する、そして早急に対応を考え実行することが大切である。それで現場は納得、安心、安定する。

 その3は時代の変化に適応するよう意識改革し行動をとる。人は周囲の状況を自分の都合の良いように解釈し、またこれまでの慣例を鵜呑みにして行動する。それを防ぐ方法として日常業務の見直し、方針、改善事項の浸透、成果の検証を実行する。職員の意識を変えるには、情報の公開、共有、活用を積極的に行う。当院の重要課題は経営改善である。個々の職員は個人、患者、病院の仕事をする。この3つの仕事の配分は各人の立場、役割によって異なる。そこで病院経営に最適な仕事の配分を考える。上層部は病院の仕事の配分を大きくする。病院局長は円滑、円満な人事と効果的な仕事の配分を実行する、経営改善の成果を上げる、時代の反動に適切に対応することなど大切な仕事が求められる。

 

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