小樽市立病院 臨床倫理指針

作成:令和7年7月16日
小樽市立病院 臨床倫理員会

臨床倫理指針の前文

 この指針は、当院の診療行為・看護実践における倫理的問題について、患者の尊厳、法令、社会通念、医療者としての責務、当院の役割などの視点から、問題を解決に導くための規範を明文化したものである。医療の進歩と社会における価値観の変化に合わせ、改定を重ねる。

基本原則

  1. 医師の倫理的なあるべき姿に関する「ジュネーブ宣言」、患者の権利に関する「リスボン宣言」の理解を深める。
  2. 患者の生命の尊厳と人格・自己決定を尊重する。
  3. 患者の立場・視点を理解し、良好な信頼関係を築くよう努める。
  4. 患者に情報を正しく提供し、十分な説明と同意に基づく自己決定の尊重、患者に個別化した最善の判断に努める。
  5. 科学的根拠に基づいた、安全で良質な医療を提供するように努める。
    患者の個人情報やプライバシーを保護し、職務上の守秘義務を遵守する。
  6. 関係法規(生命倫理・医療倫理の諸指針・ガイドライン)を遵守する。
  7. 解決が困難な場合や重大な倫理的問題は、当委員会に病院としての助言を求める。

倫理的問題への対応

1 意識障害などで自ら意思を示すことができない患者(同意能力のない患者)の意思決定

  1. 家族などの適切な代諾者が患者の意思を推定できる場合は、その推定意思を尊重し、患者にとって最善の方針をとることを基本とする。
  2. 家族などの適切な代諾者が患者の意思を推定できない場合には、患者にとって何が最善であるかを患者の代諾者と医療者が十分に話し合い、患者に最善の方針をとることを基本とする。時間の経過・心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じ、繰り返し行う。
  3. 家族などの適切な代諾者がいない場合、患者にとって最善の方針をとることを基本として、臨床倫理の基本原則に則り、主治医・担当医を中心に医療・ケアチームの多視点で話し合い最善の方針を判断する。
  4. このプロセスで話し合い、決定した内容は、都度、診療録・カンファレンス記録等に記載する。
「同意能力」とは
 同意能力とは、自己決定に関する情報を理解する能力、自己決定(若しくは決定の欠如)の合理的に予測される結果を評価するための能力を意味する。
 同意能力は以下の4つの能力を複合したものである。
 以上の能力を有している場合、同意能力があると判断できる。
 ①選択を証拠づける能力
 ②適切な情報を理解する能力
 ③自己の置かれている状況、結果を認識する能力
 ④情報を論理的に操作する能力

2 DNARへの基本的な考え方

DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)
 疾病の末期において救命の可能性がない患者に対し、患者本人又は患者の利益に関わる 代理者の意思決定を受けて「心停止時に心肺蘇生を行わない」こと。
 DNAR指示は、患者・家族との意思決定に基づき、医師が事前に関わる職員に対して周知する指示のこと。
  1. DNAR指示は心停止時のみに有効であり、通常の医療・ケアは別に議論する。
  2. DNAR指示と終末期医療は同義ではなく、DNAR指示に関わる合意形成と、終末期医療実践への合意形成は別に行う。
  3. DNAR指示に関わる合意形成は終末期医療に関するガイドラインに準じて行う。(注1)
  4. DNAR指示の妥当性を患者・家族と医療・ケアチームが繰り返し話し合い、評価する。
  5. いかなる場合も安楽死や自殺ほう助を認めない。
  6. このプロセスで話し合い、決定した内容は、都度、診療録・カンファレンス記録等、患者・家族が納得しているかも含め記載する。

注1:厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」
  日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本循環器学会
  「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~」

3 終末期医療

「終末期」とは
以下の3つの条件を満たす場合を「終末期」という
1 医師が客観的な情報を基に、治療により病気の回復が期待できないと判断すること
2 患者が意識や判断力を失った場合を除き、患者・家族・医師・看護師等の関係者が納得すること
3 患者・家族・医師・看護師等の関係性が死を予測し対応を考えること
  1. 医師等から適切な情報提供・説明がなされ、患者の自己決定を尊重する。
  2. 多職種で構成される医療・ケアチームの十分な話合いの下に医療・ケアを提供し、全人的な苦痛を緩和する。
  3. 患者の意思は「変化しうるもの」と理解し、患者本人と話合いを繰り返しながら、患者の意思形成・表明・実現を支援する。
  4. 人生の最終段階における医療・ケアの開始、差し控え、医療・ケア内容の変更は、医療・ケアチームによって医学的妥当性・適切性を慎重に判断する。
  5. このプロセスで話合い決定した内容は、都度、診療録・カンファレンス記録等、患者・家族が納得しているのかも含めて記載する。

4 検査・治療・入退院の拒否、指示の不履行・強制退院

  1. 医療行為(検査・治療)によって生ずる負担と利益の説明に最大限努め、慎重に話し合う。
  2. 患者が望まない医療行為を患者が自律的に判断できる場合、患者が拒否できる権利を認める。
    ただし法律に基づき、医療行為の拒否が制限され得る場合があることに注意する。
  3. 入院治療の必要性がないと医学的に判断された場合、退院の必要性を説明し協力を依頼してもなお患者・家族が応じない場合は、病室の明渡しを求める法的手段を検討できる。
  4. 患者の問題行動が、病院の秩序や他の患者及び職員の生命、身体、精神等に被害を及ぼす可能性がある場合は強制退院を勧告できる、また勧告に応じない場合は法的手段を検討できる。
  5. 患者の問題行動が他の患者及び職員に対する威力業務妨害・脅迫・暴行などの犯罪行為に関する場合、直ちに警察に通報し、診療を拒否することができる。
  6. 患者・家族と医療者の意向がコンフリクトする場合、必要に応じ当委員会にて審議を行う。
  7. このプロセスで話し合い、決定した内容は、都度、診療録・カンファレンス記録等、患者・家族が納得しているのかも含めて記載する。

5 輸血の拒否と相対的無輸血

「相対的無輸血」とは
 患者が無輸血治療を希望する場合、その意思を尊重し可能な限り努力をするが、輸血以外に救命手段がないような事態に対しては輸血を行うという立場のこと。
  1. 患者の意思を尊重するが、輸血せずに救命できない事態に陥った場合、相対的無輸血の立場をとる。
  2. 輸血療法が必要である場合、適切な情報提供・説明がなされ、同意を得るように努める。
  3. 適切な情報提供・説明を行っても方針が受け入れられない場合、転院を勧告できる。
  4. このプロセスで話し合い、決定した内容は、都度、診療録・カンファレンス記録等、患者・家族が納得しているのかも含めて記載する。

6 透析医療

透析の「見合せ」とは
 透析を差し控える、又は、透析の継続を中止するのではなく、透析を一時的に実施せずに病状の変化によって透析を開始する、若しくは再開するという意味がある用語であり、合意された事項はいつでも撤回・修正ができる。
  1. 医師等から適切な情報提供・説明がなされ、患者の自己決定を尊重する。
  2. 患者の意思は「変化し得るもの」と理解し、患者本人と話し合いを繰り返しながら、患者の意思形成・表明・実現を支援する。
  3. 進行性に腎機能低下が見られる場合は末期腎不全(ESKD)となる前から腎代替療法(RRT)(腎移植・腹膜透析・血液透析)や保存的腎臓療法(CKM)関する情報を提供し、患者の自己決定を支援する。
  4. このプロセスで話し合い、決定した内容は、都度、診療録・カンファレンス記録等、患者・家族が納得しているのかも含めて記載する。

7 身体拘束

  1. 身体拘束は人間としての尊厳を損なう危険性を有すると同時に、身体的・精神的・社会的弊害をもたらす。可能な限り身体拘束以外の方法をチームで話し合い、最善の方針を判断する。
  2. 行動制限の必要性を判断する場合、医師等から適切な情報提供・説明がなされ、患者・家族に同意を得て実施する、同意を得られない場合は身体拘束を行わないことで起こり得る不利益や危険性を適切かつ十分に説明し、その内容を診療録に記載する。
  3. 緊急やむを得ない場合は、同意の有無にかかわらず以下の3つの要件を満たす場合にのみ実施する。
切迫性:身体拘束を行わなければ患者若しくは他者の生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高い。
非代替性:身体拘束などの行動制限を行う以外の方法が見つからない
一時性:身体拘束が一時的である。
  1. 身体拘束を行う場合は、院内において標準化されたフローチャートに基づき、適切な判断のもとに実施、繰り返し評価を行い、早期に解除できるよう支援する。
  2. このプロセスで話し合い決定した内容は、都度、診療録・カンファレンス記録等、患者・家族が納得しているのかも含めて記載する。

8 虐待

  1. 高齢者・障害者・児童への虐待やドメスティックバイオレンスは重大な人権侵害である。これらの事象が疑われる場合は、患者本人の人権・意思尊重のもと、関係機関と連携する。
  2. 高齢者・障害者・児童への虐待やドメスティックバイオレンスが疑われた場合は、当院の「DV・高齢者・障害者虐待対応マニュアル」及び「児童虐待対応マニュアル」に従い対応する。

9 治療上必要となる医薬品の適用外使用

  1. 医薬品の適用外使用とは、医薬品添付文書(医薬品医療機器等法に基づいて作成される公文書)に記載されていない医薬品の使用方法である。通常は添付文書を遵守し医薬品を使用するが、一方で患者の生命を守るために必要な場合もある。使用を検討する場合は事前申請とし、当委員会にて適応外使用への有効性・安全性の審議を行う。
  2. 適用外使用を患者に提案する場合、医師等から適切な情報提供・説明がなされ、患者の自己決定を尊重する。

10 移植医療

 脳死となり臓器提供ができる施設は、『「臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針(2022年改正)』により、一定の要件を兼ね備えた病院に限定されている。当院は要件を満たしているが、臓器提供施設にはまだ登録されていないため、患者がドナーカードなどにより臓器提供への意思を示した場合、又は代諾者と成り得る家族(ガイドライン上の「親族の範囲」)から患者の意思に沿って臓器提供への申し出があった場合は、当院の「臓器移植に関する対応マニュアル」に従い、日本臓器移植ネットワークと連携し、対応する。

11 その他の倫理的問題

 医療行為の倫理的妥当性が問題になった場合は「当院臨床倫理委員会要綱」に従い、審議を行う。

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