小樽・後志圏域の呼吸器内科診療の維持のために

 小樽・後志圏域の呼吸器内科の現状をお知らせします。小樽市医師会員の皆様におかれましては何卒ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

小樽・後志圏域 の呼吸器内科診療の維持のために(第2報)

2022年10月5日
小樽市立病院院長 有村 佳昭
小樽市医師会会長 鈴木 敏夫

小樽市医師会
会員各位

謹啓

 仲秋の候、平素は私どもの病院および医師会活動に対して格別のご厚情誠にありがとうございます。

 後志圏域の呼吸器診療は相変わらず現在も最大の危機に瀕しています 。
 その後の市立病院呼吸器内科の窮状をご説明し、今春に作成いたしました、持続可能な小樽・後志圏域の呼吸器診療のための対策案を一部加筆修正して再掲いたします。今一度ご確認いただきご支援のほどよろしくお願いいたします。図らずも小樽医師会の皆様にはご不便やストレスをおかけすることとなり、誠に心苦しく思っております。皆様のご理解、ご協力のもと呼吸器診療のタスクシェア/シフトにより、この難局を乗り越える方策としたいと思います。持続可能な小樽後志地区の呼吸器診療に向けて、より一層のお互いの歩み寄りが何より重要と考えております。

 ご高配のほど何卒お願い申し上げます。

謹白

.小樽市立病院呼吸器内科の現状

 呼吸器内科病床利用率の推移を、本年9月末日まで3か月毎に図1に示します。図1aは春の第1報に掲載したもので、皆様のご協力により図1bに示す通り、6月までは、ピーク形成はあるものの、ある程度の入院抑制効果が認められておりました。しかし、最近は、コロナ禍のため病床の利用率制限(図1c網掛け部)にも関わらず、常に右肩上がりのオーバーベッドで稼働しており、なし崩し的に利用率200%を超える事態をきたしています(図1c)。さらに、入外患者数としても、前年に比べ月平均で400人ほど増加しており、今年は、医師一人当たり130人/月の負担増となっております(表1a)。わずか3人の常勤医で院内の収益ランキングでも2位となっており、その異常ともいえる負担は明らかです(表1b)。

小樽協会病院から紹介された肺癌患者だけでも既に多数通院されており、市立病院の呼吸器内科は本当に厳しい現状にあります。また、小樽市外の後志地区からの負担も増加しており軽視できないのも事実です。呼吸器領域患者に限り「市立病院は、救急患者を原則受けるべし」の大原則すら崩れつつあり、当院呼吸器内科は破綻しかねない切実な状況に陥っています。すなわち、このままでは当該圏域の呼吸器診療が維持できなくなるのは目に見えています。そこで第2報をこのタイミングで発出し今一度、皆様のご理解・ご協力をお願いすることとしました。

当院での最近の呼吸器内科への入院に至る現状をまとめると、1)直接呼吸器内科の当番に依頼が来た場合、細菌性肺炎など明らかに「他の医療機関で対応可能」なケースは、不本意ながらそれなりにお断りせざるを得ないのが現状です。それにも関わらず、2)呼吸器内科の専門性を要求される入院もあり、当院で対応せざるを得ない症例も多いのも、また事実です。また、3)自宅で体動困難となり、急患として搬送され、精査の結果、肺炎と診断された症例は、”ADLの低下した近くに身寄りのない独居高齢者”であることが多く、本来「他の医療機関で対応可能」であり、当院での入院期間も長期化する傾向があります。したがいまして、現在、この3)の負担が最も大きく対応に苦慮しております。同様なケースとして、新型コロナ感染症は軽症にも関わらず、ADLがかなり低いことが問題の高齢者や1年前から情報提供していたのにも関わらず、搬送を断られた後志地区の肺癌BSC1)患者などが挙げられます。これら赤字でハイライトした疾患に対する対応は、「II. 小樽・後志圏域で持続可能な呼吸器診療のために」の項で詳述します。

※1)BSC(ベスト・サポーティブ・ケア):効果的な治療が残されていない場合などに、がんに対する積極的な治療は行わず、症状などをやわらげるケアに徹することを言う。患者の希望に応じて、痛みの軽減やQOLの向上を目的として行われる。

図1.呼吸器内科病床利用率

a: 第1報で提示した1/1から4/7までの推移
b:4/1から6/30までの推移
C:7/1から9/30までの推移

表1.呼吸器内科の患者数および収益状況

a 患者数・医師数・医師1人当たりの月延べ患者数(直近6ヶ月)             (人)

<参考>前年同月の推移                                             (人)

b 院内収益ランキング

Ⅱ小樽・後志圏域で持続可能な呼吸器診療のために(呼吸器内科医に対するburnout対策)

1.細菌性肺炎(特に高齢者)の取り扱い

 専門性の高い肺癌や間質性肺炎について、市立病院への一極化は避け難いと思われます。一方、一極化する必要性が低い、専門医・非専門医で治療内容に差が出にくい細菌性肺炎患者の取り扱いは各病院へ分散(タスクシフトできると助かります。下記に具体案を提示させていただきます(図2左) 。

(1) 細菌性肺炎に関しては、原則自院で治療します。開業医が入院加療を必要と判断した場合、下記1)-3)のいずれかで対応します。
1)原則、市立病院以外の有床病院への転送をお願いします。
2)オープン病棟をお持ちの先生は当院オープン病棟利用をお願いします。
3)内科二次輪番日ならば当番病院に依頼します。

2.紹介の時点で緩和ケアのみの方針(BSC)になるような肺癌の取り扱い

 積極的治療適応の乏しい(高齢者など)肺癌患者は紹介されても、初診時からBSCの方針になることがほとんどです。これを現状のまま市立病院の呼吸器内科で経過観察すると、 「癌の進行で自宅生活が厳しくなる→時間外・救急外来受診する→市立病院の呼吸器内科に入院させざるを得ない→転院には時間がかかり病床が逼迫する→積極的治療を早急に要する専門性の高い患者が入院できない」という悪循環に既に陥っています。このままでは、この状況には改善の余地がありません。そこで、当科を紹介受診された際には、呼吸器内科専門医の立場からBSC方針が適切であることを患者や家族に説明致します。その方針を納得された後は、昨今の病床逼迫・呼吸器内科のマンパワー不足を説明し、ひとまず紹介元の医師に逆紹介します。そこで逆紹介された医師は、下記1)、2)のいずれかで対応します(図2中)。
1)外来緩和ケアを行いつつ、自宅生活が困難になった際はお看取りまでの入院が可能な診療機関に紹介します(近隣の有床病院の理解や輪番制などの協力体制が必要かもしれません)。
2)あらかじめ対応可能な病・医院のリスト化し、在宅看取りの可能な診療医に紹介します。

3.「ADLの低下した近くに身寄りのない独居高齢者救急搬送」の取り扱い

 救急搬入の原因として、単に生活環境が著しく悪いなど社会的背景の要因が大きい患者も、最終的に肺炎があれば落としどころとして呼吸器内科に診療を依頼されることが多いのも事実です。市立病院の性質上、この類の症例を受け入れないわけにはいかないのですが、一旦入院するとベッドを占有していまい、転院先探しは容易ではありません。そこで、これまで通り初療は市立病院で行いますが、トリアージ後は、後方支援病院やご協力いただける病院に速やかに受け入れていただき、その後の診療をご負担(タスクシェア)いただくことを是非とも検討お願いいたします(図2右)。上述した緩和症例に関しても同様なご配慮をお願いいたします。

図2.呼吸器診療のタスクシェア/シフト

4.呼吸器内科患者上限の設定

市立病院の呼吸器内科の定床数 (20床)とは関係なく、受け入れ要請があった時点での在院患者の重症度なども勘案して、自分たちのキャパシティーを超えていると判断した場合は、最悪、現在のように患者を断らざるを得ません。同じことが協会病院呼吸器内科にも言えます。

5.関連大学教室との協力体制の整備

 前述の通り、当院の呼吸器内科の実績を考えると、医師の増員が必須です。最低でも常勤医4名体制ならびに非常勤医による援助が確保できるように、病院としても札幌医大第三内科に粘り強く交渉を続けていきます。札幌医大第三内科では、以下の札幌市内の7病院に小樽からの患者をスムースに受け入れられるよう通達しています。これらの施設をご利用したい場合は、市立病院を介して依頼させていただきます。

  • 札幌医科大学附属病院
  • 札幌厚生病院
  • 札幌JR病院
  • NTT東日本札幌病院
  • 斗南病院
  • 手稲渓仁会病院
  • JCHO北辰病院

 一方、北大呼吸器内科では、協会病院の再来診療が継続できるように出張医を派遣いただいております。6月以降も1名常勤医が残留していますが、来年3月で常勤医は不在となります。4月以降週2回の再来が継続できるよう出張医の派遣を検討頂いております。

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