骨折リエゾンサービス(FLS)
骨粗しょう症について
骨粗しょう症とは骨の強度が低下して骨折しやすくなることを言います。骨質が悪くなり、骨の構造がスカスカしてもろくなってしまうことから、背骨がつぶれてしまったり、転倒しただけで骨折を生じてしまいます。骨粗しょう症は痛みなどの自覚症状がないことが多いため、「自分は大丈夫!」と思っている方も多いと思います。
日本では人口の急速な高齢化に伴い、骨粗しょう症患者は年々増加しています。「骨粗しょう症の予防と治療ガイドライン 2015年版」によるとその数は1300万人と推測され、椎体、大腿骨近位部、前腕骨などの骨折が生じやすく、その後の日常生活に大きく影響を及ぼします。最近では「骨卒中」という言葉もあり、転倒により様々な外傷によって移動能力をはじめとする日常生活動作が著しく制限され、生命予後が悪化してしまいます。
日本は世界でもトップクラスの長寿国です。そのため、最近では健康で自立した生活を送る期間を表す「健康寿命」が重要視されています。しかし、平均寿命と健康寿命には約10年程度の差があると言われており、健康寿命を短縮させる要因の1つとして骨粗しょう症による骨折があります。骨粗しょう症に伴う骨折には手術が必要になることがあり、高齢での手術は体に大きな負担をかけてしまいます。長く生き生きと生活をするためには骨粗しょう症の予防、治療が大切になります。
内臓の病気は命に直結するイメージがつきやすいので、定期的に健康診断を受ける方は多いと思います。骨も同様で定期的な骨密度の測定、薬物療法、運動療法、栄養管理など様々な側面から骨粗しょう症による骨折を予防することが大切です。これらを合わせて治療することで、健康寿命を延ばすことにつながります。自分の骨はどのくらいの強さなんだろう?とお考えの方は、ぜひ一度当院にご相談ください。(文責 整形外科 主任医療部長 佃 幸憲)
骨折リエゾンサービス(FLS)
骨粗しょう症が原因で骨の強度が低下し、小さい外力で生じる骨折を脆弱性骨折と呼びます。脆弱性骨折は一度生じると二次性骨折リスクが極めて高くなるため、骨折治療を受けた方に再発する骨折を未然に防ぐことは本人のみならず、家族、地域社会、医療経済の面からも非常に重要なことです。そこで当院では2022年7月より骨折リエゾンサービス(FLS; Fracture Liaison Service)を開始しました。リエゾンとは「仲介」「連携」「橋渡し」を意味するフランス語で、FLSは二次性骨折予防に努めるチームのことです。医師だけでは診療時間に限りがあり、十分な医療を提供できません。そのため。看護師、薬剤師、理学療法士、診療放射線技師、管理栄養士、医療相談員、事務員、メディカルクラークなど様々な職種で協力して各職種の強みを生かして、作業を分担することで、骨粗しょう症治療の開始、継続のお手伝いをしております。
当院では7名の骨粗鬆症マネージャーがいます。骨粗鬆症治療の中心的役割を担い、次の骨折を来さないために協力して治療にあたっています。
当院のFLS活動
当院では2022年7月より、大腿骨近位部骨折、10月より上肢骨折(橈骨遠位端骨折、上腕骨近位端骨折など)に対する骨折リエゾンサービスを開始しました。手術治療だけではなく、骨粗しょう症治療の開始、継続の重要性についてもご理解いただくために、脆弱性骨折の治療の際には手術内容と同時に骨粗しょう症治療の必要性、重要性についても記載した説明用紙、同意書を用いて説明しております。治療の流れや骨粗しょう症検査の流れをプロトコールを作成してスタッフ間で共有して治療を行うことで、高い治療開始率・継続率、骨粗鬆症検査実施率を維持することができました。まだ、短期間の結果のみのため、今後は長期間にわたって継続できるようにしたいと思います。骨密度測定は半年を基準に定期的に継続していただきます。今後は背骨の脆弱性骨折である椎体骨折にも適応していくことを検討しています。
また、当院だけではなく、地域のかかりつけ医の先生方とも連携をとり、当院で検査を行い、適切な治療指針を当院で計画した上で、かかりつけ医の先生方に治療に御協力いただき、この地域の脆弱性骨折予防に努めたいと考えております。
当院でのデータや活動を発信するため、学会活動や講演会を随時行い、他地域のスタッフとも情報交換を行い、より良い治療が提供できるように取り組んでいます。
骨粗しょう症治療に関する相談
当院では整形外科・骨粗鬆症マネージャーが中心となり、骨粗鬆症治療・検査に関する相談を受け付けています。
現在、治療中の方でも骨密度測定、採血、画像検査を組み合わせて適切な治療を提供しております。
自己注射に自信がない方も御相談ください。
当院におけるFLS導入前後の骨粗鬆症治療・検査率(大腿骨近位部骨折)
治療率・検査率はリエゾンサービス導入後大きく改善しております。当院ではほとんどの方が中断せずに治療を続けられています。整形外科・骨粗鬆症マネージャーが中心となり、骨粗鬆症治療・検査に関する相談を随時受け付けています。
骨密度測定、採血、画像検査を組み合わせて適切な治療を提供しております。
また、骨粗鬆症治療には糖尿病のインスリン療法のような自己注射があります。現在自己注射中の方で継続に自信がない方も御相談ください。
近隣の医療機関の皆様へ
今後、医療機関の皆様より骨粗しょう治療をご紹介いただく際に、ホームページにお時間をかけずに作成できる専用の診療情報提供書ダウンロードページを設置予定です。
詳細は体制が整いしだいホームページ上でお知らせいたしますので、当地域の先生方は診療科に関わらず、ぜひご活用ください。
2023年夏~秋に開始予定です。
講演会・学術活動
2022年度
2022年5月28日 The 3rd Fragility Fracture Symposium
- パネルディスカッション
パネリスト:佃 幸憲(整形外科 医師)
2022年10月5日 骨粗鬆症診療Web Seminar in 小樽 ~2次骨折を防ぐための骨粗鬆症治療
- 演者:平塚 重人(整形外科 医師)
「高齢者脊椎手術における骨粗鬆症の治療戦略」
2023年2月1日 小樽FLS連携フォーラム
- 演者:畑 知見(整形外科外来看護師 骨粗鬆症マネージャー)
「多職種チームでつなげる骨折リエゾンサービス ~当院の取り組みと今後の課題~」
- 演者:佃 幸憲(整形外科 医師)
「高齢者二次性骨折予防のための病診連携 ~大腿骨近位部骨折多職種連携診療を通じて~」
2023年2月17日 第13回小樽市病院局発表会
- 口演:松岡 知樹(整形外科 医師)
「当院における大腿骨近位部骨折手術までの受傷後経過時間 ~受傷後48時間以内の手術実施に向けて~」
- 口演:本間 優斗
「AIを用いた胸腹部CT検査による潜在的な骨粗鬆症患者の検出」
- 口演:満田 諒(病棟看護師)
「大腿骨近位部骨折後の骨粗鬆症治療における多職種連携介入の効果 ~骨粗鬆症治療・検査の介入率・継続率向上に向けて~」
2023年3月2日 共に診る高齢者医療
- 演者:佃 幸憲(整形外科 医師)
「超高齢社会における二次骨折予防のための骨粗鬆症治療 -内科・整形外科間の連携で防ぐ骨卒中-
2023年3月30日 骨折リエゾンサービス(FLS)向上部会 院内研修会
- 演者:佐藤 慎太郎(整形外科病棟看護師 骨粗鬆症マネージャー)
「多職種で介入する骨粗鬆症治療~骨折リエゾンサービスによる骨粗鬆症治療効果~」
- 演者:遠藤 智康(医療技術部リハビリテーション科 骨粗鬆症マネージャー)
「大腿骨近位部骨折を繰り返さないための転倒の知識と予防」
2023年度
5月15日 一から始める二次骨折予防セミナー
- 演者: 畑 知見(整形外科外来看護師 骨粗鬆症マネージャー)
「急性期病院で始める骨折リエゾンサービス ~活動における課題への取り組み~」
5月26日 後志病院薬剤師会学術講演会
- 演者: 佐藤 礼菜(薬剤部 薬剤師 骨粗鬆症マネージャー)
「当院における骨折リエゾンサービス ~骨粗鬆症治療率向上のために薬剤師が出来ること~」
6月8日 二次骨折予防セミナー
- ~骨折連鎖を断ち切るためのリエゾンサービス(FLS)の意義~
演者: 畑 知見(整形外科外来看護師 骨粗鬆症マネージャー)
「治療継続につなげる骨折リエゾンサービス ~急性期病院である当院の取り組み~」
6月17日 OLSミーティング 旭川
- 演者: 畑 知見(整形外科外来看護師 骨粗鬆症マネージャー)
「チームで取り組む二次骨折予防 ~当院の大腿骨近位部骨折クリニカルパスと各職種の役割」
7月7日 共に診る・高齢者診療 ~高齢者の神経障害性疼痛管理と二次性骨折予防~
- 演者: 佃 幸憲(整形外科医師)
「大腿骨近位部骨折治療のための骨折リエゾンサービス ~多職種で取り組む工夫と効果~」
7月20日 十勝病院薬剤師会学術集会
- 演者: 中村 友一(薬剤部 薬剤師 骨粗鬆症マネージャー)
「脆弱性骨折における薬剤選択の重要性 ~骨折リエゾンサービスでの薬剤師の役割~」
- 演者:佃 幸憲(整形外科医師)
「二次性骨折予防のための大腿骨近位部骨折リエゾンサービス ~多職種でつなぐ脆弱性骨折治療戦略~」
8月26日 OLSナースのお仕事(骨粗鬆症リエゾンサービス関連パネルディスカッション)
- パネリスト:畑 知見(整形外科外来看護師 骨粗鬆症マネージャー)
8月31日~9月1日 第61回全国自治体学会 札幌
9月8日 第2回小樽FLS連携フォーラム
- 演者:畑 知見(整形外科外来看護師 骨粗鬆症マネージャー)
9月29日~10月1日 第25回日本骨粗鬆症学会 名古屋
FLSチームで日本骨粗鬆症学会に参加しました

2023年9月29日~10月1日に名古屋国際会議場にて日本骨粗鬆症学会が開催されました。全国から多数の参加者が集まり、活発な討論のもと教育研修口演、シンポジウム。一般演題など多くの発表がありました。当院FLSチームも参加し、6人7演題を発表しました。昨年7月よりFLSチームを発足し、それからの1年間の当院での活動を報告して参りました。全体の参加者が多い中、発表者は緊張や不安もあったかと思いますが、全員十分な発表ができたと考えています。今回の学会参加を通じて最新の知見を勉強することができ、有意義な研修ができました。今後も小樽後志地区で良い医療を提供するために本学会で得た知識を活かしていきたいと思います。
会場では済生会小樽病院の骨粗鬆症チームとも合流して有意義な情報交換ができました。写真はその時のものです。今後は院内だけにとどまらず、病院間の連携を強化し、地域全体の骨粗鬆症治療の向上に努めて参りたいと思います。
- 中村 友一 (薬剤部) 一般演題 口演
「当院での大腿骨近位部骨折後の骨粗鬆症治療におけるゾレドロネート
の年代別使用状況の検討」
「クリニカルパスを用いた二次性骨折予防のための治療介入率向上に向
けた当院の工夫 ―多職種連携における薬剤師の役割―」
- 本間 優斗 (医療技術部放射線室) 一般演題 口演
「AIを用いた胸腹部CT検査による潜在的な骨粗鬆症患者の検出」
- 遠藤 智康 (医療技術部リハビリテーション科) 一般演題 口演
「当院における大腿骨近位部骨折患者の転院時歩行可否に影響を与える
術直後因子についての検討」
- 畑 知見 (看護部) 一般演題 口演
「アバロパラチド自己注射機器に関するアンケート調査 ―注射機器の
発展に伴う高齢者への影響―」
- 満田 諒 (看護部) 一般演題 口演
「大腿骨近位部骨折後の二次骨折予防における骨折リエゾンサービス導
入の効果」
- 木津谷 菜悠 (医局 整形外科) 一般演題 口演
「当院における大腿骨近位部骨折受傷後48時間以内手術の実態調査」
今後の予定
11月17日 小樽後志エリア二次性骨折予防セミナー
- 演者 畑 知見(整形外科外来看護師 骨粗鬆症マネージャー)
「二次骨折予防につなげる多職種・地域連携を目指して ~急性期病院である小樽市立病院の取り組み~」
- 演者 萩野 浩 先生(独立行政法人労働者健康安全機構山陰労災病院 副院長)
「二次性骨折予防の基礎と実践 ~薬物療法と運動療法を中心に~」
※医療機関所属の医療従事者は一部を除きどなたでも聴講可能です。
受賞歴
2023年2月17日 第13回小樽市病院局発表会
- 優秀賞 本間 優斗
「AIを用いた胸腹部CT検査による潜在的な骨粗鬆症患者の検出」
- 優秀賞 満田 諒(病棟看護師 骨粗鬆症マネージャー)
「大腿骨近位部骨折後の骨粗鬆症治療における多職種連携介入の効果 ~骨粗鬆症治療・検査の介入率・継続率向上に向けて~」
メディア掲載情報