人は歴史に学ばず経験を活用しないと失敗する

 最近の世相で、政治、経済、スポーツ界等のリーダー的な人達だけでなく、一般人にも自分の立場、役割を果たすことなく、非常識、不適切な言動がみられることは、由々しき問題である。その問題解決のため早急に根源を明確にし、適切な対応をとることが重要である。
 個人の特徴はその資質、経験、環境によってつくられる。資質は生まれつき持っている性質や才能である。経験は自分の五感によって物事を体験して得られる。環境は自分の置かれる人的、物的状況であり、人を内面外面から刺激して変化させる。歴史はその時代に生きる人達の希望、要請を受けてつくられる。時代に本当に必要なものが選別されて事実として生き残る。その事実は客観的で、適正、真実であり多くの人達に有用である。従って歴史に学ぶことは人を正しく適切な方向に導く。人は容易に失敗する。しかし失敗はその受け止め方、対応の仕方次第で、これも人を正しい方向へと導く。以上概要を述べたが、具体的に項目と実例を挙げて説明する。

 人の特徴について:人は世の中に生まれ、育てられ、立場、役割を与えられ、仕事をして評価され、そして亡くなる。人は自分の都合の良いように物事を解釈して行動する。自分を特別な存在であると錯覚し思い込み、周囲に迷惑をかける。組織をまとめ、同じ方向に動かすには、強圧的な指導力である権力と、優れた才能と信頼、尊敬できる人間力である権威の両方を、バランスよく発揮することが重要である。しかし権力を得た者はそれに酔いやすく、維持することに固執する。そのワンマン体制のため周囲の優れた人達が離れ、正しい情報が入らず、適切な状況判断ができず裸の王様になって退去する。日産のカルロス・ゴーン会長は、現在の日産の経営状況を改善するため自分のリーダーシップを発揮する必要があるので、即刻釈放することを強く要請した。しかし、日産の現状は、職員の大多数が今回の公私混同の不正事件に強い怒りを持ち、リーダーとして信頼、尊敬を寄せ、一緒に働こうという気持ちではなくなっており、ゴーン氏は惨めな末路を迎えている。人はどんなに活躍し才能や実績を認められても、時が流れて3ヵ月も経てば忘れられる。歴史はその時代に必要な人に仕事をさせ、その役割を果たすと葬り去ることを繰り返す。

 歴史に学ぶ:愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶという。ドイツ宰相ビスマルクは愚者だけが自分の経験から学べると信じているが、私は最初から自分の誤りを避けるため他人の経験から学ぶのを好む。チャーチル首相は自ら未だ経験していないことを先人の経験から学んで行動選択に生かすことが賢者であるとそれぞれ語った。
米沢藩主の上杉鷹山は領民のため潔癖な改革を厳しく推し進めたが、時間が経つにつれ緩みが生じ、側近の1人が改革前の姑息な手段を用いた。そのため改革が遅れ領民から批判された。鷹山はその者のやり方が歴史の流れに逆行するもので領民のためにならないと判断し処罰した。そして私が処断するのではなく歴史が処断するのだと強調した。

 経験を活用する:人生においては経験の意義を知り、それを適切に活用することが重要である。経験はその人の個人的、主観的なものであり、適正な体験を積み重ねていくことにより賢者になる。知識と経験が組み合わされて知恵者となり、周囲から信頼、尊敬される。一方経験に頼りすぎる者、あるいは経験が浅く頼り甲斐のない者は、社会に適応せず自己本位になり易く、扱いづらい愚者となり、周囲に問題と混乱を引き起こす。自分の立場や役割を弁えず不適切な言動をする国会議員達は、政治家に求められる知性、理性、品格に欠ける愚者である。自分をコントロールできない者は失敗する。一方自分の経験を大切に、誠実に、真剣に取り組んでいくことで、貴重な体験から知恵が得られ、良き人間関係が築かれ、人間として成長し、一流の人物になる。歴史上、一流の人物が最も大切にしたものは、人間関係から得られる経験であった。ニトリの似鳥昭雄会長は、良き、楽しい、信頼できる人間関係が企業の発展に必須である。京セラ、日航の稲盛和夫会長は経営のトップは社員を惚れさせる者でなければならない。江戸幕府の創設者徳川家康公は大将というものは自分一人では何もできぬこと、家来というものは惚れさせねばならぬことが、33年間つくづく思い知らされた経験である。田中角栄元首相は政治家として最も大切なものは人を動かす政治力であり、これはいろいろな力が統合されたものだが、結局は人と人との信頼関係の積み重ねによる。以上それぞれ含蓄のある貴重な経験を語った。

 失敗する:失敗はそれに対する受け止め方、対応の仕方によってその価値が変化する。失敗は成功のもとの言葉通り、失敗を反省し、挑戦、努力することで成果を上げられる。失敗を恐れずに挑戦することを勧めるが、同じ失敗を繰り返さないよう心掛ける。失敗は人に謙虚、寛容、思いやりをもたらす。これを受け止められるようになると人は成長し、高く評価される。一方失敗を人、設備、環境の所為にする者および反省、再挑戦に消極的な者は自分を惨めにし、成長のみられない人物になる。
 人は歴史上貴重な事実から学び、自分を磨き、より良い経験を積み重ねていくことが大切である。

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