最近の国内自動車業界の不祥事から学ぶ

 最近の国内自動車業界の不正行為による不祥事は、日本のものづくりの国としての評価に暗い影を落とすことが危惧される。

 私がこの問題に強い関心を持つ理由は、医療界にも同じような事態が生じる可能性のあること、現在国は公立病院の役割、経営改善に力を入れていること、そして当院も新公立病院改革ガイドラインに基づき新小樽市立病院改革プランを策定し、現在20のアクションプランを立て計画的に実行していることなどである。我々の目標達成には医療の質を高めて、患者、国民に喜び、幸福を、職員に意欲、夢そして病院に活性化、勢いをもたらすよう尽力する。そのためには診療の質、患者サービスの質、そして経営の質を高めながら好循環を形成することである。

 このことは自動車業界も同様といえる。会社の業績、評価を高めるためには、まず自社製品の質として最新型、高性能、低燃費、客へのサービスの質として安心、安全、快適、低価格、そして経営の質として高収益、効率性、研究開発、福祉、社会貢献などに力を注ぐことである。自動車業界のトップとなった人の出身は、創業家の人達、会社生え抜きのサラリーマン、国内外からのプロ経営者などがおり、彼らの人間性によって会社の方針、活動、雰囲気が大きく変化する。

 今回の自動車業界の不祥事問題は大きく2つに分けられる。1つは燃費不正問題である。三菱自動車は燃費を良く見せかけるために不正なデータを国に提出、スズキは法令と異なる燃費の測定方法を採用した。もう1つは完成車に対する無資格検査問題である。日産自動車とスバルは国の規定に反して資格のない従業員が完成車の検査をしていた。

 燃費申請の自己認証制度はメーカーが自己申告するデータに不正がないという「性善説」の上に成り立っている。三菱自動車が約25年間にわたって不正な方法で燃費データを計測していた。他社との開発競争に勝ち抜くために、現場に強い圧力をかけていたことも判明した。過去の欠陥車リコール隠し問題の教訓を生かせず不祥事を繰り返す原因は、三菱グループがついているという甘えがあり緊張感に乏しい体質、そして上司にものを言いにくい企業体質にあった。

 日産は三菱自動車の燃費データの疑問点を指摘した。そして企業の経営力と管理能力の弱点をカルロス・ゴーン社長が見抜き、傘下に収めて改革を進めることにした。そうしている中で2017年9月に国土交通省の立ち入り検査によって、国内6工場で社内規定に基づき認定された者以外の者が完成検査の一部を実施していたこと、その後の調査で資格試験が不適切に実施されていたことなどが判明した。日産の現西川廣人社長は、首脳部がこの不正事実をまったく知らず、本部課長と現場の係長との連携体制に不備があり、首脳部のコントロールが行われていなかったと無責任な発表をした。

 その日産に続きスバルが無資格検査の実態を報告した。スバルでは30年以上前から伝統的に、研修は受けているが資格を持たない人にさせていたことを認めた。創業以来技術力は優れているが経営管理力不足による業績悪化のため、日産と提携し経営支援を受けていた。吉永泰之現社長は日産からさまざまなことを教えてもらったと会見で話していた。

 ゴーン氏は2000年6月から2017年3月まで日産の社長に就任していた。彼はゴーン改革として徹底したコストカットと効率性の重視、大幅なリストラ、収益性の高い売れる車の販売に力を注ぐことによって、日産の経営の立て直しに成功した。その一方で収益第一主義の急激な社内変革による人員削減、人材不足、職員のモチベーションの変化、人間関係のひずみがみられた。このゴーン社長の強力なトップダウン手法は、アングロサクソン型経営の特徴である。

 しかし松下幸之助氏は利益を目的とし事業拡大ばかりを考える経営者は、視野狭窄になり判断を誤ると忠告した。経営者のS・ゴシャール氏は「経営者は利己的という前提の理論を習った欧米のエリート達は、その通りの利己的経営者になっていった」と述べ、経営者性悪説的な統治論に警鐘を鳴らした。一方スズキの燃費不正問題の背景として約40年にわたりカリスマ経営者として君臨した4代目鈴木修社長は、日本型のワンマンタイプの経営手法についての限界を自覚し、民主的な運営の必要性、他社との情報の共有の必要性を語った。そしてトヨタとの提携を実行し、会社の信頼を取り戻した。

 そのトヨタは経営的、技術的に安定、成長している。日本だけでなく世界でもトップレベルの企業であり、職員のモチベーションも高く人材にも恵まれる。5代目社長の豊田英二氏は、社風なき会社からは立派な人材や製品は生まれてこない。企業のみならずあらゆる組織では組織の理念と使命を明確化し、働く者においては仕事の基本として浸透させ、外に広く広報することが経営の興廃を握っていると語った。

 そして現在の11代目社長の豊田章男氏は、トヨタも一時期、利益至上主義に走り、大企業病に陥ったが、見事に持ち直した。それは彼が社内の誰よりも自動車が好きで、就任後「もっといいクルマづくり」をスローガンにしたことで社内の雰囲気がガラリと変わった。従業員もユーザーに喜んでもらえるいい自動車を造りたいと奮起することで消費者からも支持され、結果として業績もついてくる。この日本の伝統のものづくりの精神をしっかりわきまえ、経営を行っていることが高く評価される。

 私はこの度の4つの自動車メーカーの失敗から学ぶとともに、優良メーカーのトヨタの企業精神、活動方針、雰囲気づくりを参考にして、これからの病院改革、改善の推進を進めていくことを考えている。

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