組織と人事と人脈

 組織は人の集まりであり、組織の発展には人の成長が必要である。組織の円滑、円満な運営には適正な人事が必要である。人事の活性化には有益な人脈が必要である。医学・医療界の組織には大学、病院、医局・教室などがある。そこに所属する人には人事によりそれぞれ立場と役割が与えられる。その決定はその人の背景、経歴、実力、実績、人間性そして人脈による。人脈は人間関係であり、共通する環境、目標そして相性によってつくられる。今年に入り、3つの祝賀会で挨拶を依頼された。その時に組織、人事、人脈のことを念頭において語った。

  1. この度中村記念病院が開院50周年を迎えた。私は札幌医大にいた当時から小樽市立病院にいる現在まで、初代院長の中村順一先生、そして2代目院長の中村博彦先生とは親密なお付合いをした。順一先生には3つの尊敬すべき点があった。1つ目は大きな夢をいつも語るが、それらの夢を見事に実現させる実行力であった。2つ目は立派な教育者であり、中村学校で学んだ多くの若手医師を一人前の脳外科専門医としてだけでなく、全国に通用する病院経営者として育て上げた。3つ目は時代、組織、人物の将来を冷静かつ客観的にみて判断する見識力で、特に自分の後継者に自分と異なるタイプの人を適切に選んだことであった。順一先生の行動、態度は秀吉タイプだったが博彦先生は家康タイプであり、その見事な引き継ぎが、今日の中村記念病院の成長、発展をもたらした。博彦先生には小樽市立病院経営改革プランの外部評価委員として誠実に的確な対応、指導をしていただいた。先生は病院の長年の負債を解消し黒字に転じさせた。職員のモチベーションを上げることに力を注ぎ、国内外の学会、研究会に職員を積極的に派遣した。そこで彼らの得た情報、経験を病院運営、経営に活かし経営改善を図った。そして学会出張費用などは単なる支出でなく、人材育成のための投資であるとの立派な考え方を持っていた。
  2. この度森田潔先生は岡山大学長の役職を立派に果され退任された。「人は立場によって成長する」と言われる。最近の森田先生には元学長の恩師・小坂二度見先生と同じ雰囲気、オーラが見られること、その言動に情熱と迫力がある他、大人の気配りがあり、人間的に大きくなった。「人は尊敬している人、憧れている人から大きな影響を受ける」のである。森田先生は学長として小坂先生の精神、行動をしっかり見習い、情熱と信念を持って多くの難しい課題に取り組み、立派な成果を挙げた。特に森田先生の優れている点は、時代の流れ、要望を読み取る先見性である。これからの時代にどのような医療体制が必要かを考え抜いて「岡山大学メディカルセンター」構想を打ち立てた。私は若い時から森田先生を頼もしい弟分的存在、また私の後任の日本麻酔科学会理事長として親しく付き合ってきた。私にはこの構想の実施に心配する点もあった。世間では「人は他人を立場でみて判断、行動するものであり、その立場を離れると人の態度、言動も変わるものである」と言われる。これから先生の頼りになる人脈は、面倒をみてきた教室員、同門会員である。彼らの力を活用することである。
     さて、森田先生には大切な人間関係をつくる良い縁に恵まれ、時代の貴重な出来事に直面して自分を活かす強い運を持っており、そして物事を成し遂げる活力がある。この良縁、強運、活力の3つすべてが揃っている人は、その時代から求められる人、すなわち時代の英雄的存在になる人である。そこで時代の厳しい掟を知る。それは「英雄が時代をつくるのでなく、時代が英雄を呼ぶ、そして英雄に仕事をさせて、それができなければ情け容赦なく他の者を呼んでくる」ことである。これから森田先生は目標達成、夢の実現のために厳しい道を歩んでいく。途中の数々の障害を乗り越えてその目標を達成することで本当の喜びと幸せを味わえる。
  3. この度升田好樹先生が札幌医科大学集中治療医学の教授に就任した。升田先生の教授就任は3つの条件がすべて揃ったことによる。1つ目は今回、大学側の事情により在職年齢10年以上の慣例に拘らず適任者を選出するという好運に恵まれた。2つ目は山蔭道明先生、成松英智先生など札幌医大麻酔科教室出身教授および同期の友人の教授との良き縁に恵まれた。3つ目は本人のこれまでの努力と苦労による実力、実績の蓄積と人間面での成長が高く評価された。教授の大事な仕事は教室をまとめ、業績を上げることである。この業績とは仕事の質量であり、体積で表現できる。体積は横、縦、高さの3要素を掛け合わせる。横は活動の期間であり、これが短ければ、スピーディーかつ効率的に協力し合って活動する。縦は活動の活性化であり、スタッフの協力体制、対外的な人間関係、人脈をしっかりつくり、活用する。そして高さは活動の質であり、仕事に真剣に、集中的に、忍耐強く、継続して取り組む。そのことを成し遂げるには升田先生が教授として教室の中で一番よく働くことである。升田先生が働くことは、はたをすなわち周りをらくにする。それによりスタッフ達がたのしく仕事をする、その姿を升田先生が見て、たのしむ。すなわち働くことは人をらくにすることからたのしますように「楽」の言葉の呼び方と意味が変化する、すばらしい行為である。さて多くの教授達は組織の長として仕事、任務が自分の才能、実力で立派に果たしていけるかどうか苦しみ、悩む。それを克服する心構えは、まずそのような厳しい仕事、任務をするchanceを与えられたことに感謝して、それに果敢にchallengeし、自分も含め、周囲の状況をchangeする。そして成果を挙げて、社会に貢献する。それを実践することが升田先生の教授として求められる使命である。

 

 人は組織、人事、人脈との良き出会いによって、貴重な思い出に残る仕事をして人生を送る。組織は人なりである。人は人事により活かされ、人脈により幸運に恵まれて活躍し進歩する。

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