現代における病院管理者の悩み

 この論文は週刊「医学のあゆみ」編集部から2015年2に依頼され、2015年7月11日に雑誌に掲載されたものです。

 

 今生きている時代のなかで、病院管理者は病院という組織をどのような考え、方法で活動するかを決める。活動するなかで悩みが生ずる。悩みは活動する組織の課題であり、克服すべき目標になる。目標は管理者だけでなく、職員全員に周知して達成することである。

 病院管理者は病院の形態、個人の立場と役割の違いによってその名称が付く。それは病院長、病院局長、理事長である。全部適用の自治体病院では開設者の首長より任命される病院事業管理者が管理責任者であり、病院局を設置して病院局長となる。局長は病院運営だけでなく自治体の医療行政にも携わる。院長職を兼務できるがほとんど専従である。

 私は病院管理者を2回経験している。1回目は2002年に札幌医科大学医学部附属病院の病院長になり、麻酔科教授を兼任した。この時の貴重な経験は、当時の各科診療科、部門の責任者(教授)に対して具体的数字とデータを客観的に示し、現実を自覚させたことである。事務職員に対して現場を直接みせること、失敗しても責任は院長がとること、そして物事がうまく行ったとき、その職員の業績にする旨を伝えて仕事をさせた。いずれも効果を上げた。この時の経験は2回目の病院管理者の時に大いに役立った。2回目の病院管理者就任は2009年に教授定年を迎えるにあたり、当時の学長および小樽市長からの招聘であった。当時の市立病院の状況は、市の財政が厳しいため病院の統合、新築計画の中止、全国自治体病院のなかで最低レベルにある経営状態、医師の離職と大学からの医師派遣中止による医師不足、新病院建設に関する市と医師会の軋轢など多くの難題を抱えていた。

その状況に対して、私は不思議と悩みがなくむしろ使命感を抱いた。それは定年のタイミングに私を必要とする天の声、人脈が豊富である地の利、親交のある人達が多く人の和が得られるからであった。

 私が病院管理者として心掛けたことは私のこれまでの大学人、学会人として組織運営に携った経験と知恵に基づいた。その基本は強いリーダーシップをもってトップダウンで実行することであった。その実践項目は①自分が一番よく働き、体、頭、心を場面に応じて働かす、②相手の話をよく聞き、プライドを傷つけない、③自分の考えを繰り返し話し、確認する、④大人の対応として歩み寄る、⑤決断したことは速やかに実行する、⑥自分の言動に責任をもつ、⑦自分の引き際を考えること、である。

 

病院管理者の悩みの具体的な課題と対策

1.病院職員の意識改革を進める悩み

  1. 市立病院の統合、新築の意義の理解・・・就任時の視察で両院を可及的早期に統合、新築することが先決であると確信した。2つの病院は独立しており、設立背景、診療科内容、経営状況、職員の気風などに違いがあり、職員間の意思疎通がとれなかった。職員に対して私は2つの病院が単に統合、新築するのでなく、まったく新しい病院の理念と活動方針のもとで働くことを繰り返し説明した。
  2. 職員、病院の社会、時代の要請に対する適格、迅速な対応・・・①職員には個々人および職場、病院の実力、実績を客観的に評価する、②外部から厳しい評価を受ける、③院内だけでなく対外的に強くアピールする、④外部から注目される存在になること、が必要である。
  3. 具体的な取組み・・・①病院経営外部評価委員会の設置:各方面の専門委員より厳しい評価を受ける。そのことで職員が外部からみた当院の現状をしっかり知る事ができ、その問題点の改善を図る。②新病院の理念、基本方針の実行:当院は質の高い、信頼、安心できる医療を地域住民に提供する。急性期医療の総合病院として、専門性の充実とチーム医療の推進を図る。③広報活動の普及と推進:当病院および職員の実情を、院内はもとより対外的によく知ってもらう。そのために院内研究会、学会出席、広報誌、病院誌、ホームページの活用を図る。

2.新病院建設にあたっての悩み

  1. 建設地の課題:私が赴任して、建設予定地を視察し、建設地の変更を市長に進言し、議会の承認を得た。建設予定地になった小学校の児童達の心情への影響を心配した。しかし児童達は大人達より時代の要請を知っていた。翌年の学校の配置換えに対するアンケート調査では9割の学童が満足していた。
  2. 病院建設工事と費用の課題・・・病院建設は総額約138億円で大型公共工事プロジェクトであった。その事業は5つに分割し、大手と地元業者の共同企業体が請け負うことにした。入札は2回不成立となったが、建設費を10億円削減することで3回目の入札が成立した。費用面は市が総額の14%を支払うことで、市の財政負担を軽減した。

3.医師確保の悩み

 病院で医師が余裕をもって質の高い、最良の医療を行うためには医師確保が必須である。これからは病院が教室および医師個人から選ばれる時代になる。医師が勤務したい、あるいは教室員を派遣したい病院とは、①患者数が多い、②教育、研修体制がよい、③専門医の資格がとれる、④医療機器、設備が備わる、⑤仕事および生活環境が整う、⑥給与をはじめ待遇面がよい、⑦病院職員、住民が親切である、⑧交通のアクセスがよいなどである。

 私が赴任した時の医師数が42名であったのが、この6年間に60名に増加した。これまでの地道な努力、医師はじめ職員達の親切な態度、そして新築効果による。当院は臨床研修医など若手医師に人気がある。それは当病院の将来にとって喜ばしいことである。

 

おわりに

 人生悩みは尽きぬものである。市立病院の統合、新築のため大いに働き、その分悩みも多かった。これからは新病院の機能、経営面の改善・充実を図ることに悩み、それを克服していくなかで職員の成長と病院の発展を大いに期待する。 

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