4人の教室出身者に贈った言葉

 教室という共同体組織は医師にとって大切な人生の道場である。そこでは教室員は熱心な教育を受け、お互いに切磋琢磨して仕事をするとともに親密な人間関係をつくり生活をする。従ってお互いに真の実力と潜在能力そして人間性と将来性が良くわかる。現在札幌医科大学麻酔科学教室出身の教授は全国に13名いる。最近1年間で2名が全国学会の会長を務め、2名が新教授に就任した。彼らの祝賀会の挨拶の時に贈った言葉を紹介する。

  1. 平成25年10月に金沢医科大学麻酔科学教室の土田英昭教授が日本臨床麻酔学会第33回大会を開催した。土田先生は若い時分より後輩から慕われ、同輩から信頼され、先輩から可愛がられていた。その理由は彼には和の力を大切にしていたからです。本学会のテーマは「和の力」であり、彼の生き方、考え方を見事に表現するものであり感心した。信頼される大人の態度は「和して同せず」と言われます。それは自分の考えをしっかりもって、他人に穏やかに歩み寄り、仲良く物事を進めるため成果を上げることができます。今回彼の「和の力」を改めて知ったのは学会抄録を見た時でした。学会プログラムの企画がすばらしく、その演者、司会者の人選が真に適切でした。そして彼の「和の力」を確認できたのは会長招宴が和気あいあいとした雰囲気が漂っており、これまでにない楽しい会になったからです。翌日から始まる学術集会が彼と共感する皆さんの「和の力」の発揮により盛り上がることを期待します。
  2. 平成26年2月に岡山大学救急医学教室の氏家良人教授が第41回日本集中治療医学会学術集会を開催した。氏家先生は若い時から集中治療、救急医療に興味をもって熱心に勉強しており、その知識、技術には大変優れたものをもっていました。それ以上に感心したのはチーム医療のリーダーとしての素質には立派なものがあり輝いていたことです。彼は岡山大学で大きな壁、厳しい試練に会いながら、それらを見事に克服して実力、実績を上げました。そして日本集中治療医学会の理事長、そして本学会の会長として大いに活躍しています。学会開催において、その内容、雰囲気は会長の人柄、才能が色濃く表われるものです。この度の学会の企画・プログラム構成には彼の才能、英知が十分に発揮された見事なものであります。また明日から始まる学会運営は彼のきめ細やかな配慮と、柔軟性のある対応により円滑、円満に行なわれるものと確信しています。
  3. 札幌医科大学集中治療部門の今泉均准教授が東京医科大学集中治療部門の教授に就任した。今泉先生が教授に就任できたのは3つの条件が揃ったからです。1つ目は彼の生命力が充実していた。活力、やる気がみなぎっていた。2つ目は良縁に恵まれた。周囲の人達から温かい支援、協力がえられた。3つ目は幸運に巡り合った。相手側大学の要求に見事に適合したことです。これからは教授として3つの条件が必要です。それは率先して働く、適切に決断する、そして自分の言動に責任をもつことです。組織のトップとして実績を上げるには急いだ、表面的な仕事をするのではく、足をしっかり地につけて地道に、誠実に仕事をすることです。その場合の心掛けとして5つの「あ」ではじまる言葉を贈ります。それはあせらない、あわてない、あなどらない、あつくならない、あきらめないであり、この言葉を胸に秘めて頑張ることを期待します。
  4. 信州大学麻酔・蘇生科学教室の川股知之准教授が和歌山県立医科大学麻酔科学教室の教授に就任した。川股先生が教授に選出された一報を聞いた時にすぐに私の脳裏に浮んだのは「天、知、人」の言葉でした。この3つの言葉が見事に揃った賜物であり、運命的なものを感じました。彼がこれから教授として自分の活動そして教室運営に当って行くうえで大切なことは「天の時、地の利、人の和」の意味をしっかり自覚して行動することです。すなわち自分は時代、世の中から要請されてチャンスに恵まれることで、天の時をえる。周囲の環境、利点を最大限活用できることで、地の利をえる。そして共同目標のためにお互いに歩み寄り、一致協力することや、お互いの立場、役割を尊重するなどの良好な人間関係を構築することで、人の和をえる。これらの3つの言葉を実践するには、勇気をもって明るく、素直に、前向きに行動することです。教室員に対する現実的な心掛けとしてはいつも臨床現場にいることで安心感を与える。重大な事態が生じた場合迅速、円滑に対応することで信頼感を与える。自分の都合、希望を強要しないことで親近感を与えることです。教授として教室員の育成、教室の充実、発展のために必要な気配りは自分に3割、教室および教室員に4割、対外活動に3割の配分で行うのが適当であると思う。彼がこれらの言葉をよく認識して活躍することを期待します。

 私は現職の時この4名の教授達を含め教室員に対し、謙虚、責任、感謝の言葉の意味をよく理解して、行動することをくり返し述べてきた。実はこの3つの言葉は自分へ向けての言葉であり、また自らを戒める言葉でもある。

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