病院局の最近の活動状況 -活動には自覚、使命感、行動力が必要-

はじめに

 この論文は平成25年7月22日開催の平成25年度第2回拡大経営戦略会議での基調講演をもとに作成した。講演では

A.小樽市立病院に関する講演

B.新病院建設の存在意義

C.具体的な課題と対策        の3項目について述べた。

 

A.小樽市立病院に関する講演

 小樽市立病院に関してはネット情報で全国的にその存在が危機的状況にあることが報道された。その一方で新病院の統合・新築が進められていることもあり注目されている。

 この5月23日に東京で平成25年度全国病院事業管理者研究会があり講師として招聘された。そのメインテーマは「失敗に学ぶ」であり、私は「医師会の対応」について講演した。

 小樽市においては15年前から市立病院の統合・新築と経営改善が大きな課題となり、大いに議論が行われてきた。その中で市当局と医師会との間に見解の相違と軋轢が生じ、その対応に市当局は苦慮した。

 

1.新病院建築に関する市長、市当局の見解: (平成13~15年)

(1)市民代表の市立病院検討懇話会を設立し、その会に医師会長も参加して提言書を作成する。

(2)その提言書をもとに両市立病院の院長・副院長会議が基本構想案を作成する。

(3)基本構想案は医師会はじめ関係各位の意見を反映させて完成させる意向である。

(4)新病院建築は市の事業であり、方針、予算も市議会を通過したものである。

(5)以上のような正式な手続きを踏んでおり妥当な対応である。

 

2.医師会の見解:

(1)事前に相談のない基本構想案作成は医師会を軽視した対応である。

(2)基本構想案の内容は医師会として納得できない箇所が多くあり、不満である。

(3)基本構想案の訂正、改正を求めて市当局と話し合いを行うが意見を受け入れてもらえず、不満であり不信感を抱く。

(4)これまでの市当局の対応にプライドが傷つけられたこともあり感情的な軋轢が生じる。

 

3.提言「人間の本性」:

 古代ローマのカエサルは「人は他人の話や情報を自分の都合の良いように解釈して、自分で勝手にストーリーを作り発言、行動する。自分の考えを他人に伝えるには何度も話し、それを理解したかを確認することが大切である。説明し同意をえるのは容易だが納得させるのは難しい。どのような人間にもプライドがあるのでそれを傷つけると納得がえられない」と人間の本性についての貴重な提言を述べた。

 

4.両者の見解の相違の具体的な5項目と内容:

1).救急医療体制:

(1)市当局は

a.救急部を新病院に併設し、1次~3次の患者を扱う。

b.新設の救急部に9名(外科3名、内科3名、小児科嘱託医3名)さらに研修医を配属し、充実させる。

(2)医師会は

a.1次救急患者はこれまで通り医師会が夜間急病センターで対応する。

b.2次以上の救急患者は新市立病院の救急体制を充実させて対応する。

c.救急部の医師確保は不可能であり、検討を要する。

2).オープン病棟:

(1)市当局は

a.両病院の病床数を大幅に削減するのでそれを機会にオープン病棟のあり方を考える。

b.これまでのオープン病棟(病床40床)をオープン病床として10床にする。

(2)医師会は

a.これまで実績もありまた医師会員に有用であるのでオープン病棟は必要である。

b.25~30床のオープン病床を要望する。

3).病床数:

(1)市当局は両病院総数890床から500床程度に減少させる。

(2)医師会はさらに減少させ450~400床にする。

4).病院建設費用:

(1)市当局は高額で、豪華な建物を建てるつもりはないが最初の約250億円を見直し規模、様式を変えずに約200億円にする。

(2)医師会は

a.市の人口減少、財政、病院経営状況を考えるとさらなる見直し、検討が必要である。

b.市民への税負担が増えないことを第一に考えるべきである。

5).建設用地:

(1)市当局は小樽病院隣接の小学校を第一候補地にしたが、学校側の事情で第二候補地の築港地区に変更した。

(2)医師会は第一候補地を要望した。

 

5.市長の政治的決断:

(1)小樽病院の人事の混乱、赤字経営、小樽市の財政悪化および社会の経済不況を総合的に判断して、平成19年11月の議会で市立病院統合・新築計画を一時中断し市財政の立直しに集中して取り組むことを表明した。

(2)総務省からの「自治体病院改革ガイドライン」に従い「市立病院改革プラン再編・ネットワーク化協議会」を設置した。

(3)今後の市立病院の運営を考え「全適」を採用すること、病院事業管理者として私を招聘することを平成20年11月の議会に報告し承認をえた。

 

6.病院事業管理者として心掛けたこと:

(1)新病院統合・新築は管理者に託された重要かつ緊急な問題であることを覚悟して、強いリーダーシップを発揮する。

(2)これまでの関係資料をよく読み、医師会はじめ各方面の方々の要望、意見をよく聞き、それを客観的、冷静に判断して方針を決める。

(3)医師会に対しては主に小樽市医師会だより、その他小樽市および病院の広報誌、ホームページ、新聞等のマスコミを活用する。さらに公開討論会を行って、私の考え方、やり方を客観的、具体的に明確に伝える。

(4)活動形式は管理者のトップダウン方式で行い、病院局を中心にして積極的、迅速にかつ慎重に押し進める。

(5)この活動形式が円滑に推進するにはa.情報公開、b.事実の確認、c.言動に対する責任、d.信頼される態度、e.歩み寄る大人の対応、そしてf.適切な引き際を考えることに心掛ける。

 

7.病院局が決定した事項:

a.病院建設地(量徳小学校跡地)、b.病床数(388床)、c.病院建設費用(137億円)、 d.オープン病棟(30床)、e.救急医療体制(2次以上の救急と災害医療の充実)などである。

 この結果は医師会の要望がほぼ満たされている。しかし、この結果はあくまでも病院事業管理者として医学・医療学的、客観的、高所的見地および交付金、起債申請期日の時間的見地から総合的に検討、判断して決定したものである。      

そして市当局および議会に説明し承認を得ている。

 

8.市立病院の医師会に対する前向きな対応:

(1)救急医療、特に医師会からの強い要望の内科輪番制への小樽病院の参加を行う。

(2)両病院の医師達には医師会の入会を勧め、医療部長以上には部会、委員会活動に積極的に参加してもらう。

(3)地域医療連携室を強化し、地域医療機関との紹介・逆紹介患者対応の推進を図る。

(4)広報および教育活動を活発にし、広報誌、病院誌、診療パンフレット等で市立病院の状況を情報公開する。

(5)市立病院主催の研修会(緩和ケア)や研究会(小樽後志緩和医療、漢方)に医師会理事を幹事として参加してもらう。

(6)新病院の設備(ヘリポート、PET-CT、リニアック)を地域の医療関係者に開放する。

(7)新病院の医療の役割分担を果たす。

a.新病院は質の高い、最良の医療を行う地域基幹病院としての役割を果たす。

b.小樽病院にIDリンクのサーバー設置し、地域の医療機関および施設との連携を深める。

 

9.提言「失敗に学ぶ」:

(1)失敗は恐れてはならないが繰り返さないことである。

(2)失敗は誰にでも訪れることを覚悟し、冷静に対応する。

(3)失敗により自分および周辺の人達の本性を知ることができる。

(4)失敗を生かすには自分の力、存在をよく知る、謙虚に反省する、前向きに行動する。

(5)失敗を防ぐには相手を適正に評価、尊重する、コミュニケーションをよく図る、共通の目標を明確にする。

(6)失敗に学ぶことで個人の成長、組織の発展が期待できる。

 市長部局、病院局と医師会はお互いにこれまでの失敗から学ぶことで円滑、円満な関係を築き、共通の目的である市民への最良の医療を提供することが大切である。

 

B. 新病院建設の存在意義

 新病院の基礎工事が順調に進み、5月に市長はじめ市職員、議員そして6月に両病院職員に対する説明・見学会が開催された。新病院建設までの長く、困難な道のりを知っている人達にとっては大規模で最新の技法を用いる工事現場を感慨深く、また期待を込めて眺めていたのが印象的であった。病院職員はこれから本体工事が進み病院の全景が明らかになるにつれてやる気と希望、夢を膨らませる。そこで大切なのはこの病院の存在意義をしっかり理解することである。それは「新病院は小樽のシンボル的建物、施設となり市民に安心、安全、信頼、幸福をもたらし、小樽の発展に大いに貢献する」ことである。

 

1.新市立病院の建設に関する見解:

(1) 小樽市では約90億円の大型建築工事はこれまでになく、業界は事業参入を市と議会に強く働き掛けた。その一方で市民団体や医師会等はこの高額公共事業が市の財政、引いては市民に大きな負担になることを心配し、返還困難が予想される場合に直ちに中止することを要望した。

(2) 市内業者に配慮して工事施工は建築、空調、給排水、強電、弱電の5工事の分離発注、入札は総合評価落札方式とした。

(3) 3回目の入札で5工事とも市内業者との共同企業体に決定し地元業者は歓迎、市当局は安堵した。

(4) 新小樽市立病院では建物の質が確保される範囲内で出来るだけ低価格になるよう最大限配慮に努めた。その結果、工事単価は28.4万円/m2と最近道内で新築した8市立病院の平均工事単価35万円/m2に比べ極めて低価格であり、しかも1床あたりの面積も77m2と広くゆとりのある建物である。

(5) 病院建設の総事業費は約140億円であるが補助金の導入や、交付税措置のある起債(過疎債、病院事業費)を借り入れできるので市と病院の実質的負担は約71億円(51%)となる。このうち病院が37%そして市(市民)が14%の負担である。市民に多額の負担を掛けないよう配慮する。

 

2.病院局は職員の意識改革の推進を図る:

 これからは5工事の共同企業体によってしっかりした、高性能で立派な病院が建設される。その一方で病院局は、その建物および医療機器、設備が最大限活用される医療環境、人材の確保と育成そして管理・運営と人事体制の構築を早急に確立する行う責務がある。

1)職員の皆さんには自覚、使命感を持って行動力を発揮することを切望する。その言葉の意味は:

(1)自覚とは自分の状態、能力、値打ち、生き方などについてはっきり知る。

(2)使命感とは自分に与えられた任務を果たすために真剣に取組む。

(3)行動力とは目的に向って自ら体を実際に動かし励む。

(4)発揮とは自分を奮い起こすことである。

2)この激流の世の中を個人も組織も生き残っていくうえに知っておくべきことは:

(1)強いだけでは生き残れない。

(2)賢いだけでは生き残れない。

(3)正しいだけでは生き残れない。

(4)変われるものだけが生き残れる。

その場合、自分と組織が時代と社会から何を求められてるかしっかり自覚して臨機応変に方針、行動を変えていくことが重要である。

 

C.具体的な課題と対策

1.経営戦略会議開催の意義:

 本日7月22日に開催された経営戦略会議は第100回を迎えた記念すべきものでる。この会議は病院事業の経営方針、主要課題への対応等に関する小樽市病院局における意思最高決定機関としてこれまで重要な事項の決定と執行の指示に当ってきた。

 

2.先程開催された第100回経営戦略会議で決定した重要な事項は:

(1)新病院名、(2)基本理念と基本方針、そして(3)病院局に理事会の設置である。

1)新病院の名称:

平成25年6月末に全職員にアンケート調査を行った。その結果を経営戦略会議で審議し、過半数の得票を得ていた小樽市立病院に決定した。

2)基本理念と基本方針:

これまで4回にわたる経営戦略会議で協議して以下の通り決定した。

【基本理念】

小樽市立病院は、市民に信頼され質の高い総合的医療を行う地域基幹病院を目指します。

【基本方針】

(1)患者の人権を尊重し、患者中心の医療を行います。

(2)病院の運営は急性期医療を主体とし、救急・災害医療の充実に努めます。

(3)質の高い医療を実践するため、患者サービスの充実、医療安全の確保、チーム医療の推進および人材の育成に努めます。

(4)地域の医療機関や保健・福祉分野との連携を進め、地域医療を支えます。

(5)健全で自立した病院経営に努めます。

3)理事会の設置:

(1)理事会設置目的:病院の統合・開院に向けて1年半を切り細心の配慮を要する重要な課題について理事会で話し合い整理して戦略会議に提案する。それによりスムーズかつスピーディーに問題の解決が図られる。

(2)理事会のメンバー:局長、病院長、院長代行、理事3名、経営管理部長の7名である。

 今回新理事に任命された小樽病院看護部長は両病院の看護体制が新病院で円滑に行なわれるための実施責任者となる。

 

3.現在病院局での最重要課題:

それは病院の経営状況である。

(1)新病院の起債申請が認可されるには今年度に残りの地方財政上の負債をすべて解消しなければならない。そのため両院の収益目標を上げたが残念ながら4月から両病院の入外患者の減少に加え小樽病院の整形外科固定医不在により収益減少、両病院での対策効果が上がらず厳しい経営状況にある。

(2)この状態が1年続くと危機的状況に陥る。何としても乗り越えるため、私はじめ執行部が必死になって対応するのは当然なことである。その一方で職員の皆さんは自覚、使命感を持ち行動力を発揮して対応することを強く切望する。

皆さんには院内LANやホームページから病院の経営状況など病院の実情を常に把握し行動することが必要である。

(3)経営状況は医療の質と連動する。経営不振は医療の質の低下を招く、そして医療者のアクティビティー、モチベーションを低下させる。その結果病院の評価が下がり、医師確保が難しくなる。この負のスパイラルを何としても防ぐことが必要である。

(4)現在利益を上げることが最優先されるが、これは目的でなく、よい医療、やりがいのある医療を行うための手段である。そのことをしっかり認識して行動する。

(5)新病院での収支の見透しが明確になるまで人事配置、医療機器購入・整備などの運営面に関しては医療コンサルト、外部評価委員会などの意見を参考にして慎重に対応していく必要がある。

 

4. 両病院での合同活動の検討、評価:

(1)平成24年度両院での患者満足度調査:

 これで両病院における医療内容がわかる。入院診療における医師、看護師に対する満足度は85%以上であり、コメディカルも80%前後と良好であった。それに比べ外来診療での満足度は60%台で低くなっている。50%を切る部門には適切な指導を行う。

 施設・設備およびサービス項目に関してはすべての項目で満足度が50%を切っており、建物の老朽化、古い体制で実施されていることを反映する。30%を割っている項目については早急な対応を要する。なお新病院の早期開院を期待しているのは小樽病院の入院患者の41%にみられた。このことより、新病院の必要性を再認識した。

(2)ホームページでの平成24年度アクセス項目と数:

 これで両病院における関心項目と程度がわかる。局長メッセージが上位6番目にランクされているので今後より関心のもてるメッセージを掲載するよう心掛ける。

(3)小樽市立病院誌第2巻への投稿論文:

 これで両病院の個人、各部門の活動状況がわかる。今回16の論文が医師、看護師、放射線、検査技師、事務など多くの部門から投稿された。昨年より多く喜ばしいことである。論文作成は個人の成長、部門の発展に、そして病院誌は病院の医療の量・質の内容が評価される重要なものである。

(4)活動計画が現場に理解され、その結果が現場にフィードバックされ、活用されなければ活動の意味がなく、継続もしないことをよく知ることである。

 

おわりに

 新病院開院までに1年半と期日が迫る。この時期の病院局の活動は老朽化した建物でかつ異なる背景、体制を持つ2つの病院を円満に統合する作業、円滑な開院に向けての準備作業を効率的、集中的、合理的に行っていくことになる。総論は賛成するが各論になるとそれぞれ個人および部門の要望を強く主張するのではなく、病院全体のことを考える大人の対応、歩み寄る姿勢が大切である。

 一方市民の新病院に対する期待は大きいもの(平成25年度の寄付金150万円、総計6,800万円)があり、それに応えるための活動を行っていく必要がある。

 拡大経営戦略会議のメンバーの皆さんには人間として職業人として成長する医療環境、生きがい、やりがいのある職場を創ることに貢献する。そしてこれからの病院局の活動に支援と協力するという自覚、使命感、行動力をもって活動することを切にお願いする。

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