新病院の建設着工の経緯と円滑な開院の要件

はじめに

  これまで我々は新市立病院建設の夢を実現するための総論を語り、活動してきた。しかし昨年の9月27日の起工式を境にして、時代に促応する新しい病院の円滑な運営のために必要な方針を立て、具体的な客論を語り実行するよう努めている。

 

1.新病院の建設着工の経緯

  1. 病院局新築担当部門と設計者の久米設計事務所との建築主体工事を含め5工事の設計価格の算出の基本姿勢は「高品質と低価格」とした。 
  2. 第1回の建築本体工事入札は価格が合わず不調となった。
  3. 第2回は設計者の助言を受け、価格を変更せず、単独企業も参加できる入札方式としたが価格と工期の面で不調となった。
  4. この2回の入札不調を深刻に受け止め、病院局だけでなく、市当局も加わる、一方久米設計も札幌支社だけでなく、本社も加わる体制を要請し、価格の見直し検討を行った。 
  5. 第3回の入札価格算定の基本は病院の規模、機能を変更することなく、建物の質が確保される範囲内で材料の仕様変更および材料見積額の査定率を見直すことにした。その他建築工事の一部分離発注などで実質的に約10億円の乖離を解消することとした。 
  6. この間地元各建設関係団体から建設工事への参加の要望を受けた。これまで2回入札に応募するも中止された企業との面談を行った。地元の社長から「市立病院建設は公共事業であり、使用する材料、製品の品質、価格が厳しくなるのを覚悟しているが自分の会社がこの事業に参加したということを後々の時代まで家族や市民に知られることの方が大切であり早急に入札発注を行なってほしい」との発言があった。これらの切実な意見も踏まえ、市況を適正に反映した設計とするために、価格の見直し、検討を早急に行った。

  7. 3回目の入札に当っては「2度あることは3度ある」あるいは、「3度目の正直」になるか随分と心配した。お陰さまで5工事とも大手と地元企業との共同企業体に決定した。建築主体は大林・阿部、空気調和設備は朝日・山吹、給排水衛生設備は斎久・丸コ、強電設備は東光・加藤・北央、弱電設備はきんでん・中島・笹谷のそれぞれの特定建設工事共同企業体であった。5工事の予定価格の総額は 8,523,360千円で平均落札率が91.77%と低かったことから税込みの契約額(予定)は8,213,100千円となる。その結果第1回目に作成した予算価格内に収まり、追加の予算計上をせずに済んだことに安堵した。また総務省の通達により一平方メートル当り30万円を越えるとその分の起債は交付税措置の対象とならず当方の負担となるのでその点に注意を払った。最近、道内で新築した8市立病院の平均工事単価は35万円程度であり、新小樽市立病院では 28.4万円と極めて低価格で建築されることになり、注目される。出来るだけ低価格になるよう最大限配慮に努めた結果である。 
  8. 9月 25日に新病院に関する住民説明会、そして27日に起工式、鍬入れが行なわれた。式典には建設会社、市および病院そして各機関の関係者など約100名が出席し、盛大かつ和やかに執り行われた。やはり地元企業からの多くの参加が明るい雰囲気を出したものである。鍬入れの時の砂は記念に持ち帰り部屋に飾ってある。

 

2.円滑な開院に向けての要件

 現在は新病院建築開始というハード面の見通しがついた段階であり、新病院の建築(ハード面)と機能(ソフト面)の完成まで道半ばである。特に新病院のソフト面が円滑に機能していくためには開院までの2年間における対応、対策が極めて重要である。ソフト面での要件としては、経営改善、医療機器の整備と新規購入、組織体制の見直しと立て直し、人材の確保と育成の取り組みに最善を尽すことである。

1).経営改善

(1)全国自治体病院協議会の邉見会長は「黒字を出すことは病院のためでなく、そこを利用する地域住民の方々のためになり、やはりよい経営なくして、よい医療はあり得ないだろうと思う」と発言した。この会に関連ある全国病院事業管理者・事務責任者会議に3年前から出席している。出席者の中には2つの小樽市立病院の経営状況や新病院建設の進捗状況についてマスコミ、ネット等のマイナス情報をしっており、注目している。一方今年度から全国病院事業管理者協議会の幹事に選任されたことを光栄に思う。これから当病院の経営改善に有益な知識や情報を大いに取り入れ活用していくことにする。

(2)ここ10年間の2つの市立病院の経営、運営を総合評価をすると、低迷、不安定、アンバランスな状態であった。その主たる原因は小樽病院の経営にあった。その解決策として統合、新築が提案されたが、その実現に厳しい状況が続いた。4年前に私が病院事業管理者となり、全病院職員、市長はじめ市職員、議員、医師会員、そして市民の理解と協力のもと両病院の統合・新築計画を押し進め、今やっと新築工事着工を迎えることができた。

(3)私が最近特に気に掛けていることは2つの病院を無事に終結させ、そして新病院を円滑にスタートさせ、安定な軌道に乗せることである。それでこの状況を飛行機の運行に例えると理解しやすい。古く、性能の落ちた飛行機(現両病院)を無事に着陸(両病院統合)させるには両翼(樽病と医療センターの経営状況)のバランスを水平に保つようにとり、飛行場の使用条件に見合う高度(地方財政法上の資金不足解消)にして車輪を出して進入させる。そして乗務員、乗客(職員、患者)を新しく、性能の良い飛行機(新病院)に乗り換えさせ、安全、快適な飛行ができる状態(開院)を提供することである。

(4)両病院の経営、運営の現状と対策

 1.外部評価委員会と病院局との現状評価は

  a.患者数の減少、特に入院患者数が減少し、病床利用率が低い。

  b.外来収益は増加しているが、入院収益が減少している。これを合計すると若干プラスになっていているが入院収益減が問題である。

  c.平成25年度に地方財政法上の資金不足分を解消する目標の達成が難しい状況にある。病院側の経営努力で平成24年、25年で約260百万円の黒字を出して解消しなければならない。それが新病院建設の起債許可を道から得るための条件であり、極めて重要である。

  d.一般会計繰入金のうち財政支援(赤字補填)をなくする。

  e.道内主要病院と比べ高い人件費比率である。

 2.そのために早急に実施すべき対策は

  a.連携室機能を強化し、紹介率を上げる。病院の啓発、宣伝活動を活発にする。

  b.病院の経営状況をしっかり把握、分析して収入増加、支出抑制を図る。全職員が知恵、汗を出してこの問題に対応することが大切である。

  c.医師確保が最大の課題である。平成23年度の15道内市立病院における実稼動100床当たりの医師数は最下位レベルにある。一方1人当たりの診療収入は最上位レベルにある。この順位には医療センターの果している役割が大きい。医師確保については病院局長、院長、院長代行の責任のもと積極的に行なう。ホームページを充実させ、全国の医師に情報を知らせる。昨年の10月に北大、札医大の15教室の教授を訪問し、当院の事情説明、医師派遣を依頼した。昨年と異なり、新病院建設、開院が決定したのでより具体的な話し合いが行われた。その中で教室員が勤務を望む医療環境にすること、診療、教育面で大学教室と連携を強めることが求められた。各教室とも医師不足は深刻であったが、幸いにも今年4月以降に2診療科から増員の医師が派遣される。一方初期臨床研修医は1名増の3名が4月から勤務する。その他現在数名の医師と話し合いを行っている。コミュニケーションとチームワークの出来る医師を求めている。

2).医療機器の整備と新規購入

(1)新病院での医療機器および備品の新規購入予算額は約30億円である。現在、現場と医療コンサルタントとのヒアリングを行い、今後新病院の診療に必要なものの優先順位を決めて、選定し購入する作業を行っている。

(2)現在考えている購入の優先順位は

 1.高価、大型で設置工事が必要なもの、

 2.中央部門で各科が利用するもの、

 3.患者に安全、快適な状態を提供するもの、

 4.各科で最善の診療に必要なものである。

 

 今回は新病院の診療の3つの柱である「がん診療」「脳・神経疾患診療」「心・血管疾患診療」に関する医療機器が優先される。この度入札がおおよそ6ヵ月遅れたがこの間に検討する時間を持てたことは幸運であった。この間の発案でスペクト2台を1台にし、そこにPET-CTを 入れがん診療を強化する。それだけでなく近い将来に認知症診断にも保険診療適用となるので予防医学にも力を注げる。

(3)実際に機器の選定に当っては各メーカー側および、医療コンサルタントの説明を鵜呑みにするのではく、実際に使用している施設から情報を得る、または見学に行く。

(4)医療機器購入に当って心掛けることは

 1.コストパフォーマンスを考える、

 2.最良の診療ができる、

 3.アフターサービスがしっかりしているである。

3).人材の確保と育成

(1)医師の確保は当然であるが両病院の各部門の診療が円滑に行なわれ、また利益が上がるための適材適所の人材配置を  行なう。

(2)質の高い医療、患者に信頼される医療、チームワークの良い医療を行うには人材育成が必須である。

(3)個人、病院の仕事を外部に評価してもらい自分達の長所、短所を知り成長、発展の糧にする。全国学会での積極的発表お  よびこの度創刊した小樽市立病院誌を活用する

4).組織体制の見直しと立て直し

(1)今、2つの病院はすでに1つの新しい体制での病院であるという意識をしっかりもって行動する。平成24年12月現在両病  院の病床数は445床、10病棟であるがこれを開院まで新病院とほぼ同数の388床と9病棟にする。それにより経営、人事、体制面において有効利用が行われ、新病院に円滑に移行できる。

(2)両病院の各部門はお互いに人事交流、物品、機材の有効利用、共同の会議、勉強会を積極的に行なう。その場合常に新病院での活動を念頭におく。

(3)新病院は平成26年9月に完成し、11月に開院の運びとなるが、円滑な開院に移行していくためには26年4月から新しい人事、組織体制で運営していく必要がある。

 

 おわりに

 我々にとっていよいよ念願の工事が開始されることになり「賽は投げられた」わけである。すなわち「事はすでに始められたのだから最後まで遣り遂げる覚悟をもつ」という意味である。特に病院職員の各リーダーに対しては命感、緊張感、責任感をもって行動することを切望している。

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