三の付く言葉の意味すること

三の字の手順は一に二を加えて三とする。三本の一の字の空間、バランスの中に深い意味合いがある。三の付く言葉には教えられることが多くある。三の付く時間には三日、三週間、三カ月、三年がある。ある有名なバレリーナーは一日稽古を休むと自分、二日休むと周囲の者、三日休むと観客が本調子でないことがわかると言った。私が麻酔科に入局した時先代の教授からあるテーマについて三日真剣に考えるとそれが自分に必要になるものかわかる。三週間勉強すれば教室のカンファランスで一人前に発表できる。三ヵ月勉強すれば地方会で発表でき、また自分の将来の仕事として取り組むべきかわかる。三年まじめに粘り強く勉強、研究すれば国内外から評価されるレベルになると言われた。留学に関しては三日で留学に来た自覚ができ、三週間で施設、研究室そして街の雰囲気に慣れ、三カ月で自分の研究体制、方向性が決まる。その後は自分の努力、実力次第で実績を上げられる。日本で臨床で働いている医師は三年以上留学が続くと日米の研究および臨床体制のギャップに悩み活躍できない確立が高くなる。三ヵ月という期間にも重要な意味がある。新入医局員は三週間位経つと診療科の仕事が自分に向いているか悩み出し、それを乗り越えなければ三ヵ月で辞めていく。一方どんなに仕事がよく出来、信頼され、組織にとって必要な人であっても辞めて三ヵ月が過ぎると忘れられ何もなかったかのように現場が動いている。その人の存在は人の置かれている立場、役割から評価されることがほとんどであり、その人の個人的要因による影響は少ない。国内外の首相や大統領も辞めたら三ヵ月で国民から忘れられる。

結局この世ではその人の立場、役割に注目、評価されるものであるので公私混同せずに、選ばれて仕事をさせて頂いているという謙虚な気持をもつ大切さを痛感する。私はこれまで20年以上麻酔科の教授および日本麻酔科学会の理事、会長、理事長などの役職の立場、役割で仕事をし、組織の管理運営に携わってきた。そのため全国の新しく教授になった人達から教室員の指導、教室運営の仕方について相談を受けることが多かった。その時助言することは新体制になると三年のうちに辞めていく者が多くでるが悲観的にならずに、むしろ自分で努力して、三年で教室の柱となる人材を育てること、対外的な活動より教室作りに専念すること、上司として教室員から信頼される行動をとることである。若手医師の伸びる三条件は明るく、素直で、前向きな性格を持っていることである。上司が部下から信頼される三条件は一番よく働くこと、困った事態が生じたら迅速、適切に対応すること、自分の都合、希望を強く押し付けないことである。中国の故事に「三年飛ばず鳴かず」がある。この意味は将来大いに活躍していくためには三年間じっと自分の置かれている状況を観察しながら自分の力を付け、体制を整えて本格的に活動する機会を待つことである。表面的ではなく、教授として本来あるべき姿を求めて活動、活躍することが結局教室員の成長、教室の発展につながる。

私は一年前に小樽市長から三顧の礼を尽され病院事業管理者として迎えられた。その目的は市立病院の統合新築、病院経営の改善、小樽市民、周辺の地域住民の医療をよくすることである。しかしこれらの問題には現実と理想、本音と建前、総論と各論において大きな差がみられるため戸惑いを感じている。対応に当たり怒る、焦る、腐る三つの感情をコントロールするよう心掛けている。「石の上にも三年」という格言がある。これはある事を成就するには三年かかるということである。開業で成功した私の先輩は各職種の従事員の気持ち、考え方が理解でき、一方自分の考え、方針を理解させるのに三年かかり、それを乗り越えればあとはうまく管理運営できると言った。私は現在は2つの病院の多くの職種の正職員、臨時職員、委託職員など800名を越す人達を管理している。これには大きな労力を要する。この一年間でようやく古い歯車のサビを取り除き、円滑に動けるようにした段階である。 「三度目の正直」という格言がある。小樽市立病院はこれまでに新築に向けて2度の計画手直しが行われ、今回が3度目であり、ようやく新築の目途が立ってきた。今回が最後でありこのチャンスを絶対に逃すことはできない。私の在職もあと三年なのでそれまでに私に求められていること、私がすべきことを成し遂げる覚悟でいる。字通という辞書に三には天地人、三才という意味がある。その解説では天の道を立てて陰と陽と曰ふ、地の道を立てて柔と剛と曰ふ、人の道を立てて仁と義と曰ふ、この三才を兼ね備えているものが道の実践者である。三に1本縦筋を通すと王になり三才を貫くものが王であると言う。王、すなわちリーダーに必要なものは三の字義を理解し実践することである。

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